2009.11.01

刑事事件における最高裁判所の役割について考える

 2009年10月19日、最高裁判所第二小法廷(中川了滋裁判長)は、大阪市内のホテルで警護役の組員二人に拳銃を所持させていたとして、銃刀法違反(共同所持)の罪に問われた山口組の元若頭補佐の被告人について、被告人を無罪としていた第一審、第二審の判決を破棄し、審理を大阪地裁に差し戻す判決を言い渡した共同通信の記事

 最高裁判所の先例としては、山口組の六代目組長が銃刀法違反(共同所持)の罪に問われた事件で、東京地裁、東京高裁で有罪判決が出され、2003年5月1日、最高裁判所が、弁護人の上告を棄却して確定した事件(スワット事件)が有名である。

 この事件では、暴力団組長である被告人が、自己のボディガードらのけん銃等の所持について直接指示を下さなくても、これを確定的に認識しながら認容し、ボディガードらと行動を共にしていたことなどの事情の下においては、被告人は拳銃所持の共謀共同正犯の罪責を負うと判断したものであり、共謀共同正犯の成立する範囲を拡張するものであるとして批判の的となった判例である。

 ところが、今回の事件は、大阪地裁及び大阪高裁の審理において、この最高裁判決の枠組みを前提としても、認定される事実関係の下では、およそ共謀共同正犯は成立しないと判断されていたのである。

 ところが、検察官の上告を受けて、最高裁判所第二小法廷は、「(敵対的な団体から)拳銃によって襲撃されると十分認識し、その対応のために警護させていた。二人が拳銃を持っていることを知っていた上で当然のことと受け入れていたと推認するのが相当」であると指摘して、共謀を否定した第一、二審の判決には「重大な事実誤認がある」と判断した。

 すなわち、最高裁は、既に控訴審までの審理を通じて確定していた事実を、何ら新たな証拠調べもしないで覆して、その新たな事実認定を前提として、共謀共同正犯の成立を認めたのである。

 これによって、スワット事件で拡張された共謀共同正犯の範囲はさらに一層拡張され、いかなる場合に共謀が認定されるかについての基準は曖昧となり、捜査機関による恣意的な検挙を容認するものと言わなければならない。

 最高裁判所は基本的には法律審であり、著しく正義に反する重大な事実誤認がある場合に限り、職権により原判決を破棄することを認めている。

 これは、あくまでも、最高裁判所が、被告人に対する後見的な立場から、無辜の冤罪を救うような場合に発動されるべきものであって(防衛大学教授の被告人に対する強制わいせつ被告事件についての2009年4月14日最高裁第三小法廷判決の無罪判決はまさにそのような事案であったと言える)、今回のように無罪になった被告人については発動されるべきではない。

 今回、検察官は、上告理由として、暴力団というのは特別の組織であることを大きく掲げていた。これは、一部の組織に対する法律の適用を特別視するものであり、法律適用上の差別を認める考え方である。最高裁の今回の判決は、表向きはそのような論理を展開していないが、実質的には、法律適用上、一部の団体を特別視し差別することを認めたに等しいものである。

 今回の判決が、第一、二審の判決を破棄して、そのような差別を認める判決を出したことは極めて憂慮すべき事態と言わなければならない。「法の番人」たる最高裁の役割や機能という観点から見て、最高裁が法の解釈を大きく超えて、立法活動しているに等しいものであり、その役割や権限を逸脱しており、今回の判決は大変に問題があるものである。

 私たちは、改めて、最高裁判所のあり方についての議論を深め、現在のような最高裁のあり方について異議を唱える必要がある。

【Today's Back Music】
 BOBBY CALDWEL<おとなBEST>ボビー・コールドウェル(VICP-45012)
  ボビー・コールドウェルの最新ベスト盤。先日のビルボードライブ東京のライブで初めて生のボビー・コールドウェルを聴いたが、圧倒的なサウンドと力強いボーカルに聴き惚れた。また、ライブを聴きたいと思ったが、最新のベスト盤で復習と思って購入。ただ、ライブ・パフォーマンスと比べるとレコードはインパクトが少し弱い印象。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2009.09.27

民主党政権になり変化が期待されること

 第45回衆議院選挙では、民主党が308議席を獲得し、衆議院の第一党となり、2009年9月16日に召集された特別国会の首班指名で民主党党首の鳩山由紀夫代表が選出されて首相となり、鳩山政権が発足し、選挙による政権交代が実現した。

Continue reading "民主党政権になり変化が期待されること"

| | Comments (1) | TrackBack (1)

2009.08.29

裁判員裁判第1号事件と第2号事件から見えた裁判員制度の問題点

 2009年8月3日から、東京地方裁判所(秋葉康弘裁判長)において、殺人被告事件について全国で第1号の裁判員裁判が実施され、同年6日、懲役15年(求刑懲役16年)の刑を言い渡した。
 また、同年8月11日から、さいたま地方裁判所裁(田村真裁判長)において、殺人未遂被告事件について全国で第2号の裁判員裁判が実施され、同年12日、懲役4年6月(求刑懲役六年)の刑を言い渡した。 
 2009年9月には既に15件の裁判員裁判が予定されているが、全国第1号と第2号の裁判員裁判の実施を通して、その問題点が浮き彫りになってきた。

Continue reading "裁判員裁判第1号事件と第2号事件から見えた裁判員制度の問題点"

| | Comments (2) | TrackBack (2)

2009.07.25

殺人罪等についての公訴時効の廃止に反対する

 公訴時効のあり方をめぐって議論が巻き起こっている。 

Continue reading "殺人罪等についての公訴時効の廃止に反対する"

| | Comments (2) | TrackBack (0)

2009.07.13

いよいよ始まる裁判員裁判について、今考えるために

 2009年5月21日、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(以下「裁判員法」という)が施行され、この日以降に起訴された刑事事件で、裁判員裁判対象事件は、自白事件か否認事件かを問わず、すべてが裁判員裁判として行われることになる。

Continue reading "いよいよ始まる裁判員裁判について、今考えるために"

| | Comments (1) | TrackBack (0)

2009.06.29

検察審査会の改革は政治家の摘発に役に立つか

 裁判員法の施行の裏でほとんど知られていないのが改正検察審査会法の施行である。 

Continue reading "検察審査会の改革は政治家の摘発に役に立つか"

| | Comments (4) | TrackBack (0)

2009.05.26

新たな外国人在留管理制度と外国人住民台帳制度の新設を考える

 政府は、戦後60年間続けてきた外国人登録制度を廃止し、「新たな在留管理制度」「外国人住民台帳制度」を創設しようとして、今通常国会に「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する等の法律案」を上程している。

Continue reading "新たな外国人在留管理制度と外国人住民台帳制度の新設を考える"

| | Comments (1) | TrackBack (0)

2009.04.29

裁判員制度の制度設計の誤りについて改めて考える

 裁判員裁判を導入する「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(以下「裁判員法」という)は2009年5月21日から施行される予定である【5月21日から施行されている】。

Continue reading "裁判員制度の制度設計の誤りについて改めて考える"

| | Comments (2) | TrackBack (0)

2009.03.30

連発される死刑判決と揺れ動いている死刑基準について考える

 一昨年の2007年に全国の裁判所で言い渡された死刑判決は46件という多数でピークを迎えたが、昨年の2008年に言い渡された死刑判決は27件で、一昨年より19件少なく、死刑判決の増加傾向が止まったと考えられていた。

Continue reading "連発される死刑判決と揺れ動いている死刑基準について考える"

| | Comments (3) | TrackBack (1)

2009.02.28

東京江東区OL殺害事件から刑事事件の公判審理のあり方を考える

 東京都江東区のマンションで会社員の女性が殺害されてバラバラにされた事件について、殺人、死体遺棄などの罪に問われた被告人について、2009年2月18日、東京地裁(平出喜一裁判長)は、無期懲役判決を言い渡した。

Continue reading "東京江東区OL殺害事件から刑事事件の公判審理のあり方を考える"

| | Comments (0) | TrackBack (1)

«遂に始まった被害者参加の刑事裁判