2009.06.29

検察審査会の改革は政治家の摘発に役に立つか

 裁判員法の施行の裏でほとんど知られていないのが改正検察審査会法の施行である。
 検察審査会は、無作為に選ばれた市民一一人が、検察官の不起訴処分に対して申し立てがあった事件について、「不起訴相当」、「不起訴不当」、「起訴相当」を判断する機関である。
 これまでは、検察審査会が、「不起訴不当」や「起訴相当」を決議して検察庁に通知して、検察庁において再捜査しても、再度、検察官が不起訴処分にしてしまえば、検察審査会としてはそれ以上何もできなかった。

 これに対して、司法制度改革審議会が2001年6月13日にまとめた最終意見書で、検察審査会の改革も提言しており、それに基づいて、検察審査会法も2004年に改正され、2009年5月21日から、改正検察審査会法が施行されている。

 今回の改正点は多数あるが、特筆すべき点は、以下の2点である。

 第1に、検察審査会が行った「起訴相当」議決に対し,検察官が不起訴処分をした場合又は法定の期間内(原則として3ヶ月以内)に処分を行わなかった場合には、検察審査会は再度審査を行い,その結果,再び「起訴相当」議決をした場合には、裁判所が指定した弁護士が被疑者を起訴し、その弁護士(指定弁護士)がそのまま検察官役をして公判活動を行うことになる(起訴議決制度)

 第2に、検察審査会は,審査会議において,法律上の問題点等について,弁護士である審査補助員から助言を受けることができる(審査補助員制度)。2回目の「起訴議決」をする際には必ず審査補助員に委嘱することになっている(必要的委嘱)

 このように、改正検察審査会法は、弁護士の関与を増やすとともに、これまで、検察官が起訴するか否かの裁量を独占していたのに対し(起訴独占主義)、その例外を認めた点に大きな意義がある。
 これは、起訴するか否かについて、国民の健全な常識を直裁に反映させるために設けられた制度である。

 ところで、最近、検察審査会では、政治家に関わる事件について検察官が不起訴処分をしたことに対して、「不起訴不当」の意見を出すことが増えていたが、検察官はその意見に従うことはなかった。しかし、改正検察審査会法の施行によってその状況が変化する可能性がある。

 西松建設が、ダミーの政治団体名義で二階俊博経産相が代表を務める政治団体「新しい波」のパーティー券を購入していた問題について、東京地方検察庁の検察官は、元社長の国沢幹雄被告について不起訴処分(起訴猶予)としていたが、東京第三検察審査会は、2009年6月16日、これについて、「十分な証拠があるのに納得できない。すべての部分を公の法廷で説明した方が国民全体が納得する」として、「起訴相当」議決をした。
 東京地検は、これを受けて、2009年6月27日、国沢被告に対する不起訴処分を変更して、東京地方裁判所に追起訴した。

 東京地検が異例な早さで対応したのは、公訴時効が迫っていたり、国沢被告の刑事裁判がその前に結審して判決を目前にしていたことなどの事情もあるが、それでも、東京地検が起訴すると判断したのには世論の反発等がありうることを考慮したためではないかと考えられる。

 そして、今回の対応からすると(国沢被告自身は政治家ではないが、二階経産相の政治資金規正法違反の共犯的な存在である)、とりわけ、政治家の汚職案件を取り扱う特捜部の事件については、検察審査会が一度「起訴相当」議決をすると、検察庁が起訴する方向に傾きやすくなるのではないかと想像される。

 なぜかというと、世論からの圧力もあるし、検察審査会が2度目の「起訴相当」決議をした場合には、裁判所から指定された弁護士(指定弁護士)に、一件記録を引き継いで、その弁護士が公訴提起や公判活動を行うことになることから、特捜部としては、弁護士に捜査の手の内を全部見られることには耐えられないと考えられるからである。

 その意味において、検察審査会は、これまで検察庁が不起訴にしてきたような政治家についても、検察審査会に申し立てられて、一度「起訴相当」議決がされた案件については起訴される可能性が出てきたと考えられる。
 これは、検察庁がどちらかというと時の権力と結びついて、とりわけ、与党の政治家に対して甘い判断をして、不起訴処分にしてきた慣行が否定されることを意味する。

 これは、検察審査会の改正当時には必ずしも想定されたり意識されていなかった事態であるようにも思われるが、検察審査会の活用の仕方によっては、これまでの検察の起訴独占主義のあり方を大きく変える契機を持っている。

 改正検察審査会法が、政治家の摘発に大きな効果をあげるかどうかを私たち市民は注視していきたい。

【Today's Back Music】
 松原正樹/30th Anniversary Live(B001QVX5UE)
 ギタリスト松原正樹
のソロ・デビュー30周年を記念したライブ盤。パラシュート時代の曲を、今剛とのツイン・ギターが聴かせたり、マイク・ダンのボーカルが聴けるなど懐かしさと爽快さを感じられるアルバム。

| | Comments (2) | TrackBack (0)

2009.05.26

新たな外国人在留管理制度と外国人住民台帳制度の新設を考える

 政府は、戦後60年間続けてきた外国人登録制度を廃止し、「新たな在留管理制度」「外国人住民台帳制度」を創設しようとして、今通常国会に「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する等の法律案」を上程している。

Continue reading "新たな外国人在留管理制度と外国人住民台帳制度の新設を考える"

| | Comments (1) | TrackBack (0)

2009.04.29

裁判員制度の制度設計の誤りについて改めて考える

 裁判員裁判を導入する「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(以下「裁判員法」という)は2009年5月21日から施行される予定である【5月21日から施行されている】。

Continue reading "裁判員制度の制度設計の誤りについて改めて考える"

| | Comments (1) | TrackBack (0)

2009.03.30

連発される死刑判決と揺れ動いている死刑基準について考える

 一昨年の2007年に全国の裁判所で言い渡された死刑判決は46件という多数でピークを迎えたが、昨年の2008年に言い渡された死刑判決は27件で、一昨年より19件少なく、死刑判決の増加傾向が止まったと考えられていた。

Continue reading "連発される死刑判決と揺れ動いている死刑基準について考える"

| | Comments (3) | TrackBack (1)

2009.02.28

東京江東区OL殺害事件から刑事事件の公判審理のあり方を考える

 東京都江東区のマンションで会社員の女性が殺害されてバラバラにされた事件について、殺人、死体遺棄などの罪に問われた被告人について、2009年2月18日、東京地裁(平出喜一裁判長)は、無期懲役判決を言い渡した。

Continue reading "東京江東区OL殺害事件から刑事事件の公判審理のあり方を考える"

| | Comments (0) | TrackBack (1)

2009.01.29

遂に始まった被害者参加の刑事裁判

 被害者やその遺族等が、刑事裁判に直接参加して、証人尋問や被告人質問を行う被害者参加制度が、2008年12月1日から施行されており、被害者参加による刑事裁判の公判が始まっている。

Continue reading "遂に始まった被害者参加の刑事裁判"

| | Comments (1) | TrackBack (2)

2009.01.01

新年明けましておめでとうございます

 2009年も新たな年を迎えた。激動が予想される年の幕開けである。今年も本ブログをご愛顧いただければ幸いである。

Continue reading "新年明けましておめでとうございます"

| | Comments (0) | TrackBack (1)

2008.12.30

(続)今年聴いたアルバム・ベスト10(ジャズ、フュージョン編)

 昨日は、ノンジャンルで、アルバム・ベスト10を紹介したが、今日は、私が普段聴いているジャズ、フュージョンの分野でのアルバム・ベスト10を紹介したい。但し、昨日紹介したノン・ジャンルのアルバム・ベスト10で紹介したアルバムはこちらには含めないことにする。
 なお、順位の上下にはあまり深い意味はなく、いずれも今年のフェイバリットでほぼ同順位と考えていただければと思う。

Continue reading "(続)今年聴いたアルバム・ベスト10(ジャズ、フュージョン編)"

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2008.12.29

今年聴いたアルバム・ベスト10

 今年見た映画ベスト10に引き続いて、今年聴いたアルバム・ベスト10も紹介してみたい。全く個人的な偏った趣味ではあると思う。

Continue reading "今年聴いたアルバム・ベスト10"

| | Comments (0) | TrackBack (2)

今年見た映画ベスト10

 今年は例年になく映画を観た年だった。話題の映画も多かった。観たかったが見逃した話題の映画も多かったが、全く私的に選んだ今年の映画ベスト10を紹介したい。

Continue reading "今年見た映画ベスト10"

| | Comments (1) | TrackBack (2)

«知的障害者の刑事事件について考える