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2004.05.21

社会保険庁における内部告発は許されないのか?

 国民の年金加入状況を管理している社会保険庁が、内部規定である「電子計算機処理データ保護管理規定」を見直し、職員が業務目的以外で個人情報データを閲覧することを禁止する明文規定を加える改正を5月12日付けで行い、全国の社会保険事務所に通知したことが報道されている(MSN-Mainichi INTERACTIVE)。

 これは、最近、福田前官房長官の年金加入状況等が週刊文春に掲載されたが、これは、社会保険庁の管理するデータが漏洩したと思われることがこのような改正がなされたという。

 昨年5月に国会で成立した行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律においても、次のように規定して、目的外の使用や個人情報の流出などに罰則を設けている。

第53条
 行政機関の職員若しくは職員であった者又は第6条第2項の受託業務に従事している者若しくは従事していた者が、正当な理由がないのに、個人の秘密に属する事項が記録された第2条第4項第1号に係る個人情報ファイル(その全部又は一部を複製し、又は加工したものを含む。)を提供したときは、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
第54条
 前条に規定する者が、その業務に関して知り得た保有個人情報を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 この法律は公務員が組織的に個人情報を目的外に使用する場合の罰則を設けていないが、他方で、職員が個人的に情報を第三者に提供すること等を禁止している。
 今回の事態についても、適用しようと思えば、この行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律が適用することによって禁止されているとも考えられる。

 しかしながら、今回は、社会保険庁の内部規定を改正することによって、その禁止の趣旨をより徹底しようとしているのだと考えられる。

 ただ、今回の年金未納・未加入議員の暴露については、国会議員が自ら進んで未納・滞納問題を明らかにしようとしないという背景の中で、いわば、社会保険庁に所属する職員が、いわば「内部告発」として、著名な国会議員等の未納・未加入等の年金加入状況の情報を報道機関などへ情報提供することが、果たして許されないのかという問題がある。

 今通常国会においては、内部告発について、「公益通報者保護法案」が提出されている。しかしながら、この法案は、通報の対象事実や通報先を限定するとともに、マスコミを含む外部への通報を著しく限定しているなどの問題があり、このままでは内部告発を制限する法律にもなりかねないという問題が指摘されている(例えば、日本弁護士連合会の「公益通報者保護法案に関する意見書」)。

 また、最近、小泉首相について、年金に対する未加入・未納が明らかとなったが、これに関して、小泉首相の年金記録について、今年のゴールデンウィーク後に、社会保険庁の職員からのアクセスができなくなったと伝えられている(例えば、週刊新潮5月27日号30頁)。
 小泉首相については、飯島秘書官が記者会見をして、未加入時期があったことを認めたが、それが公的に裏付けられていないということで様々な疑惑が持ち上がっている。

 今回の社会保険庁の内部規定の改正は、この小泉首相の年金疑惑について、これ以上疑惑を追及を避けるために行われたのではないかという疑いがあるが、もしそうだとしたら、極めて問題がある。

 内部告発はもっと行われるべきであるし、今回のように、国会で年金法案が審議されている際に、年金法案を提案している内閣の総理大臣や閣僚、そして与党の国会議員について、その資格があるのかどうかは、主権者である国民にとっては「知る権利」の対象であり、極めて重要な情報である。

 それを、国会議員らが自ら進んで明らかにしようとしないという状況の中で、公務員である社会保険庁の職員が、それをマスコミへ内部告発することも許されるべきであり、そのような内部告発は制限すべきではない。

 その意味で、今回の措置については、国民の「知る権利」を制限しようとする動きとして、大いに問題があると言わなければならない。

【today's back music】
 川口大輔/Sunshine After Monsoon (AICL-1535)
  珍しくJ-POPだが、これは聴いていて心揺さぶられるものがある。

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「知る権利・内部告発」カテゴリの記事

Comments

 自己レスです。

 江角マキコさんのデータを社会保険庁の複数の職員が閲覧したということが報道されている。
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20040521k0000e040036000c.html

 ただ、これはある市民の年金情報を、職員が個人的に覗き見たとだけ捉えるべきではない。個人情報について杜撰な管理がなされていたことは確かだろうが(これは住基ネットについても同様である)、ここでは、江角さんのプロダクションに対して高額の広告費(税金)を投入したことについて(但し、問題発覚後全額返還したという)、その本人が未納だったという事実というのは、国民にとって「知る権利」がある事柄であるから、一般市民の個人情報とは問題が異なっていることに注意が必要である。

 この件についても、内部告発がなされたと思われるが、その内部告発は保護されるべきであって、形式的に、法律や規則に違反したら厳しく処分したり、管理を厳しくすれば良いという問題ではないのである。

Posted by: ビートニクス | 2004.05.21 at 02:34 PM

今回の事案について行政機関個人情報保護法を適用することは不可能です。(もちろん、漏洩した社保庁職員は国家公務員法上の守秘義務違反として刑罰、処分等の対象になりますが。)
政治家の未納問題については、意図的に加入・納付していなかったような場合であれば格別、手続ミスによる場合については政治責任を云々すべき性質のものではなく、誰に未加入・未納時期があった等を事細かくあげつらう近時の風潮は窃視趣味的ですね。そもそも制度論と閣僚等の加入状況とは別問題でしょう。江角マキコについても、彼女の年金加入状況と広報の適否とは必ずしも関係ない。一般的に「知る権利」が尊重されるべきことに異論はありませんが、射程が劃然としない「知る権利」のために社保庁職員が個人の判断で業務目的以外でデータベースを閲覧することを認めることは危険だと思います。また、今般のような漏洩についても、公務員の法規範違反を安易に認めることは弊害が大きすぎると言うべきでしょう。たとえば、警察官が交通安全の広報に出ているタレントや道交法改正を審議する国会議員の道交法違反歴を個人的にデータベースを検索して第三者に漏洩することは許容されるのでしょうか? 防犯運動の広報に出ているタレントや刑法改正を審議する国会議員の犯歴については?

Posted by: branch | 2004.05.21 at 08:12 PM

branchさん

 コメントありがとうございました。
 色々とご指摘いただき、ありがとうございました。

 まず、私は今回の年金情報についてだけ論じており、道交法違反歴や犯歴についても同じように論じるつもりはありません。これらの個人情報へのアクセスは厳しく管理されるべきですし、前科・前歴があることを指摘することは、それが国会議員の資質に関わる問題に関したとしても、プライバシーを侵害することになる可能性が大きいと思います。

 年金への加入・未納に関する情報については、年金法案が提案されていない状況であれば、これを一々あげつらうことは、確かに、「窃視趣味的」かもしれません。

 しかし、今回は、国会において、年金改革(改悪)のための法案を政府が提出し、与党はそれを推進し、野党も「三党合意」によって成立を推進する立場にある以上(もっとも、民主党の岡田新代表の下では、「三党合意」は破棄されるかもしれませんが)、内閣の閣僚や与党や民主党の国会議員については、その年金加入状況や納付状況は、国民にとって「知る権利」の対象となる重要な事実だと思います。この点については意見が異なる点だと思います。

 なお、今回の社会保険庁の職員の行為は、例えば、週刊誌の取材に対する謝礼をもらっていれば、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律54条違反の可能性はありますが、無償で提供しており、内部告発を目的として提供されているのであれば、その法律違反にはなりません。

 私は、別に、社会保険庁の職員が、自分の興味を満足させるために、社会保険庁が管理するデータにアクセスすることを認めるつもりはありません。
 ただ、江角マキコを使った広告問題について、年金に未加入だったり未納だったりするようなタレントを使って年金の広告を作成していることが、税金の無駄遣いであるという観点で内部告発するためにアクセスすることは許されるのではないか、と言いたかったのです。

 今後も批判的なコメントをお寄せいただければ幸いです。

Posted by: ビートニクス | 2004.05.22 at 01:06 AM

 少し時間が空いてしまいましたが、さらにコメントすることを許してください。

 犯歴や道路交通法違反については国会議員の資質に関わる問題等だとしても漏洩は許されないとする一方で、年金の加入状況等については認めるべきだ、とする論理がわかりません。いったいどのような基準で判断されているのでしょうか。

 私が挙げた事例も年金と同様に国民生活に影響が大きい法律案や税金による広報活動という点で変わりはありません。むしろ、年金加入は任意である期間はもちろん義務とされている期間についても行政処分や刑事罰によって担保されていませんが、犯歴又は道交法違反は刑罰又は行政処分によって担保されている禁止行為に反した事実であって、社会的責任はこちらのほうが重い。議員の資質を云々するのであれば、犯歴等のほうこそ「知る権利」の対象となるべきだということになるのではないでしょうか。

 本日の読売新聞の報道によれば、社会保険事務所の職員の自宅から年金の個人データをプリントアウトしたものが押収され、特定政党のオルグに悪用されていた疑いがあるとのことです。これが本当であるとすれば由々しき問題と言わなければなりません。個人的にやったことなのか組織的に行われたことなのかを含めて現段階では事実関係は明らかにされていませんが、このような事態を防ぐためにも、業務目的以外の閲覧禁止は適切な措置だと思います。

 なお、前回のコメントで行政機関等個人情報保護法が適用されないと書いたのは、同法の施行日が平成17年4月1日だからです。

Posted by: branch | 2004.06.11 at 05:40 PM

branch さん

 コメントありがとうございました。

 国民の「知る権利」という観点からは、確かにご指摘のとおり、犯歴や道路交通法違反の事実と年金の加入状況は、いずれも同じように、国民の「知る権利」の対象になると思います。

 ただ、そのような事実を暴露される側のダメージという点から考えると、犯歴や道路交通法違反の事実については、国会議員の側で相当なダメージを受けることが予想されますし、基本的には、犯歴等は既に刑罰を受け終わった過去のことですので、そこまで暴露を認めるのはどうかとも考えられます。私とては、国民の「知る権利」とのバランスで、犯歴等までを暴露するのは行き過ぎではないかと考えています。
 ちなみに、これまでも、調査会社に有償で犯歴の漏洩をしていた事例で地方公務員違反で処罰されている例が多くあり、「知る権利」を理由に、これをマスコミ等に通報する行為を完全に正当化することは困難ではないかと考えています。

 ただ、branchさんのご指摘はごもっともであり、私の見解は不徹底であると自覚はしています。

 ご指摘ありがとうございました。今後とも批判をお願いします。

Posted by: ビートニクス | 2004.06.12 at 10:14 PM

初めまして SIERRAと申します。社会保険庁の職員の大量処分に関して、日記を書いたのですが、そこにビートニクスさんのこの記事を引かせて頂きました。Branchさんとの議論を拝見して、今回の情報の漏洩を制度的に正当化することはできないと私も思いました。しかし、一市民としては今回のリークは「知る権利」に合致しているとどうしても思ってしまします。法律はなかなか難しいですね。

Posted by: SIERRA | 2004.07.18 at 02:35 PM

SIERA さん

 はじめまして。コメントありがとうございました。

 今回の大量処分の報道には私も驚きました。確かに、国民のプライバシーという観点からは、社保庁の職員が目的外に閲覧することを広く認めることには問題があります。ただ、例外的に、国民の「知る権利」に奉仕することを目指して、内部告発するために閲覧することが許容される場合もあると考えたいと思います。

 ただ、今回の大量処分は、内部告発されたことに対する一種の「制裁」とも考えられます。
 また、容易に目的外の閲覧することができるようになっているというセキュリティ管理の甘さという社保庁側の問題もあるはずであり、それを全て、一部の社保庁職員だけの責任として処理しようとするのは問題だと思います。

 住基ネットについてもそうですが、公務員が、目的外で閲覧することができないようなセキュリティシステムを導入すべきであり、それをしないで容易に目的外閲覧ができることを野放しにしているとしたら、そちらの方が問題ではないかと思います。

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