日本がエシュロンに参加して良いか?
6月21日に発売された「週刊ポスト」2004年7月2日号は、シーアイランド・サミットの日米首脳会談で、小泉首相は、自衛隊の多国籍軍参加を独断で約束しただけでなく、アメリカが推進する国際的盗聴システムであるエシュロン(echelon)に日本が参加することを約束したことをスクープとして伝えている(現職自衛官4人が怒りの座談会「ポチ・小泉」と多国籍軍)。
エシュロンは、世界中の膨大な電話や無線通信を傍受してコンピュータ解析して、軍事情報や企業情報や民間情報を収集し、同盟国間で情報交換している盗聴網システムである。エシュロンの加盟国は、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの旧英連邦の4か国である(産経新聞特別取材班『エシュロン』角川書店、鍛冶俊樹『エシュロンと情報戦争』文藝春秋)。
これらの国は長らくエシュロンの存在すら否定していたが、欧州議会は、2001年、「アメリカ合衆国、連合王国(イギリス)、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが、UKUSA協約の下、世界規模の盗聴システムを、各国の能力に応じて強調して運営していることは、もはや疑いがない。」、「このシステムの名称はエシュロンである。」、「少なくとも、システムの目的が軍事通信ではなく、個人および商業通信の盗聴であることは今や疑いない」などとする決議をしている(小倉利丸編『エシュロン-暴かれた全世界盗聴網・欧州議会最終報告書の深層』七つ森書館62頁以下)。
なお、日本は、これまで、エシュロンには加盟していなかったが、青森の米軍三沢基地内に『象の檻』と呼ばれる巨大な通信傍受施設が置かれ、極東地区の情報収集拠点となっていると言われていた。
「週刊ポスト」の記事によると、首日米脳会談で、エシュロンによる情報機能の強化が話し合われ、小泉首相は、ブッシュ大統領に対して、アメリカの中東安全保障政策への全面協力と、日本もエシュロンに本格的に参加したいと表明したという。ところが、このことは、日本のマスコミにおいては全く報道されていない。
ヨーロッパにおいては、「エシュロンは同盟国の住民や企業の通信を傍受し、米国企業を有利にする産業スパイ活動にも使われている」とする報告書が相次いで公表されて、エシュロンを批判する声が多い(前掲『エシュロン』174頁)。
そして、日本企業も狙い打ちにされているという指摘もなされているところである。そのエシュロンに我が国も加盟するというのはあまりにも皮肉なことである。日本の市民のプライバシーや日本企業の権益よりも、日米安全保障体制の方が重要であるというのであろうか。
エシュロンは、マイクロ波通信、衛星通信、海底通信ケーブルやインターネット通信を広く傍受し、暗号を解読・分析していると言われている(前掲『エシュロンと情報通信』44頁以下)。
その意味では、既に我が国におけるこれらの通信は全て、エシュロンによって傍受の対象とされていると言っても過言ではない。
ただ、これまで、日本は、エシュロンが収集した情報を分析する機関は存在しなかったが、日本がエシュロンに参加するということは、我が国の政府の中に、エシュロンが収集した情報を分析する機関を設けることを意味すると考えられる。そして、そのようにして分析した結果を、アメリカや同盟諸国に提供することになるのである。
エシュロンは、情報戦争を担う強力な武器の一種であるから、日本が、アメリカを主導国とする戦争に進んで「参加」し、同盟国入りをすることになるという点で、日本の自衛隊が多国籍軍に参加する(しかも多国籍軍の「指揮」を受けないのだという)よりも、極めて大きな意味を持つものと言わなければならない。これも、一種の「集団的自衛権」の行使なのではないだろうか。しかも、エシュロンの場合には、「(多国籍軍の)指揮下に入らない」という理屈も通らないはずである。
多国籍軍への参加が国内の議論や手続を経ることなく進められたことも、民主主義を無視した意思決定であったが、それ以上に、日本がエシュロンに参加するという極めて重大な問題について、一切公表せず、極秘のうち決定され進められているという点に驚かされる。日本は、いつ民主主義を放棄したのだろうか。
主権者である有権者の声を聞くという参議院議員選挙は今日公示された。しかし、日本という国のあり方にかかわる重大事について、国民に知らせることもなく、何の議論も手続も経ないで物事が決められ、進められているという事態を前にすると、それも何となくむなしく思えてくる。
【today's back music】
Andre Ward/Steppin' UP (Award/Orpheus 80246 90934 2 1)
サックス奏者アンドリュー・ワードの新譜です。初めて聴きましたが、非常にクールな出来です。
「盗聴問題」カテゴリの記事
- 盗聴権限を拡大する必要があるか?(2004.07.10)
- 日本がエシュロンに参加して良いか?(2004.06.25)

Comments
何かそら恐ろしい話ですね。
民主主義という点もそうですが、このエシュロンなるものは憲法違反ではないのでしょうか。。
参院選の投票格差や多国籍軍の問題もそうですが、法律(憲法)というものがあっても、国自身が守ろうともしないという現状には、あきれます。
Posted by: toriatama | 2004.06.29 at 08:56 PM
toriatama さん
コメントありがとうございました。
元記事にも触れましたが、実際、欧州議会は、エシュロンが、市民のプライバシーを侵害する存在であると批判しています。
エシュロンは、国家レベルで、本人の同意なく、電話や電子メール等のコミュニケーションを傍受している訳ですから、通信の秘密やプライバシーを侵害するという意味で、憲法違反の存在ということになるでしょう。
これまでは、我が国は、三沢基地にエシュロンの情報収集基地があることを黙認していただけでしたが、今後はエシュロンに積極的に協力・関与するということになると大きな問題ですね。
エシュロンによって自分の権利が侵害されているという国家賠償請求訴訟も可能になるのかもしれませんね。
Posted by: ビートニクス | 2004.06.30 at 06:13 AM
エシュロンの話は『飛鳥昭雄』氏の本で知り、恐怖を感じています。2000年の7月頃にテレビ朝日のサンデープロジェクトでエシュロンについて放送されていましたがその後、資料が神隠しにあったように消えてしまったと聞いています。あれもNSAの仕業なのでしょうか?
Posted by: ケツアルコアトル | 2004.08.13 at 11:25 PM
ケシアルコアトル さん
はじめまして。コメントありがとうございました。同じメッセージが2回登録されていましたので削除させていただきました。
テレビ朝日の件は初めて知りました。日本のメディアではほとんど「エシュロン」のことは取り上げられず、タブーになっているようです。
もっと、メディアが取り上げるべきだと思います。
Posted by: ビートニクス | 2004.08.16 at 08:02 AM
エシュロンとメールシステムの危険性を指摘する”エシュロンキラー”の原作を公開するホームページを作成しました。
アドレスは、以下のとおりです。
http://www.geocities.jp/internetshow2000/
これを公開することで多くの人々にエシュロンの危険性の認識を喚起したいと考えています。
つまり、この原作を小説化にして社会に出したいと考えています。
そこで、この原作を小説化していただける著作者、編集者を探しています。
ぜひ、ご一読をお願いいたします。
ご意見、ご感想があれば、ゲストボックスまたはメールにて承っています。
どうかよろしくお願いいたします。
Posted by: 名無しのコン太 | 2008.12.07 at 07:39 PM