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2004.06.01

Winny開発者が起訴されて良かったか?

 京都地方検察庁は、ファイル交換ソフトWinnyの開発者について、勾留満期である5月31日、著作権法違反(公衆送信権侵害)幇助罪で、京都地方裁判所に起訴した(asahi.com)。
 これによって、Winnyの開発者によるソフトの開発行為について、著作権侵害の幇助犯が成立するかどうかという問題について、我が国で初めて、裁判所による判断が示されることになる。

 この問題についての私の見解は、ここの過去ログで述べたので繰り返さない。
 また、小倉秀夫弁護士による専門的な解説も参考になる(benli)。

 さらに、この問題は、「日常取引と共犯」の問題として、刑法総論の教科書で論じられていることを最近知った(松宮孝明『刑法総論講義〔第3版〕』[成文堂、2004年]269頁)。
 そこで、松宮教授は、「日常的な取引行為は、それが外形上平穏な取引である限り、犯行に利用される未必的な認識がある場合でも、幇助にならないと解されるべきである。」と主張している。これをどのように理論的に説明するかについては、ドイツでも色々と議論があるようであるが、この結論にはあまり異論はないように思われ、私も全く同感である。
 Winnyの開発・頒布については、この「日常取引」に近い問題として、ほぼ同様に考えることができると思われる。

 正直なところ、京都地検がこの事件を起訴するかどうかについては半々だと思っていた。京都府警はこの事件の立件に必死だったが、京都地検はもう少しクールな立場で、この事件で有罪にできるかどうかを判断するだろうと考えたからである。
 そして、この問題については、海外の判例の動向によると、このようなソフトの開発・提供者を幇助犯として処罰するのではなく、あくまでも、そのようなツールを使用して著作権侵害を行った者を処罰する方向にあると言われている。

 しかしながら、京都地検は、この事件を起訴した。私自身は、この刑事裁判において、検察・弁護側双方で、是非とも激しい論戦を繰り広げて、裁判所の良い判断を引き出してもらいたいと願っている。その意味では、今回、京都地検がこれを起訴猶予にしてうやむやにするのではなく、起訴したことは大変に良いことだと思う。
 ただ、現在の日本の刑事裁判の悪いのは、否認する被告人に保釈を認めないという「人質司法」であるという点である。本件については、早く保釈を認めた上で、被告人と弁護人が十分に打ち合わせを行うことができる環境を確保した上で、法廷での論戦を行えるようにしてもらいたいものだと思う。

 いずれにしても、この事件の判決は歴史に残るものになると思われるので、今後とも、この刑事裁判の推移には注目していきたい。

【today's back music】
 窪田 宏/COOL JAMMING (MTCH-1081)
 キーボード奏者である窪田宏の新譜ですが、ギターやサックスをフューチャーしながら、格好いいサウンドに仕上がっています。

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「Winny問題」カテゴリの記事

Comments

白浜シンポジウムのプログラムは、1日目はチュートリアル、ウェルカムパーティーで2日目が開会式、各種講演となります。
つまり、1日目は準備段階なのですが、初っぱなに「京都府警は多忙のために来られません」とアナウンスがありました(^_^;)
来れば「小一時間」どころではないことになったとは思いますが・・・。
まぁ裁判所に舞台が移ったことは、堂々と争えるわけで、その意味では良かったと言えますね。
ウェディング問題はウェディング社から告発取り下げが検察に出されて、当然のように検察は渋ったと聞いています。検察もなかなか大変ですな。

Posted by: 酔うぞ | 2004.06.01 at 09:03 AM

酔うぞ さん

 コメントありがとうございました。

 今回、京都地検が起訴したのは、法務省とも協議の上だと言われています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040531-00000003-mai-l26

 法務省は、この種のソフト開発を幇助犯として処罰するという先例(判例)を作って、元を断つという戦略をとろうとしているのだと思います。

 これとよく似た例として、過去の例では、ピンクチラシを撲滅する際に、ピンクチラシを印刷業者を売春防止法違反の幇助犯として摘発し、判例上も認められた例があります(東京高裁平成2年12月10日判決・判例タイムズ752号246頁)。これを参考にしているのだと思われます。

 ただ、印刷行為と、ソフトウェアの開発・頒布行為はかなり異なっており、そのまま適用できるかどうかは疑問です(印刷業者を幇助としたことについても異論があります)。

Posted by: ビートニクス | 2004.06.01 at 09:26 AM

ピンクチラシの時には「よくぞ思いついたものだ」と感じましたが、とは言え紙に印刷するのですから用途がはっきりしている場合もあるでしょうし、さらには明らかに犯罪に加担するケースもありますから、ピンクチラシに犯罪性があるのか?といういわば程度問題ではないか?と思っています。

しかし、今回の話は同じ程度問題でも「思っていたことの程度問題」ですから、これは魔女裁判と同じ原理じゃないのか?という感を強くします。

ソフトウェアの開発が犯罪的である例は幾らでもあるわけで、わたしの専門の製造業の分野ではソフトウェアの誤りによる死亡事故は沢山あります。
この場合には、使用者の注意不足とされているし、第一機械というのものが自動車も同じですが人命に危険を及ぼすことはある、というのが社会的な合意ですから、ソフトウェアについても免責されるという考え方でやっているわけです。

心配しているのはウイルス作成罪が新設されますが、作成に限定出来るのか?あるいは限定することに意味があるのか?証明可能なのか?などがあります。
実際的に言えば、ウイルス作成は大迷惑の原因であっても、迷惑を及ぼすのはウイルスを配付した側にあることは明らかで、ウイルスを作成することと研究することの区別は付かないでしょう。
むしろ、ウイルス被害が出てから作成者を取り締まることなりますが、これではウイルス被害の軽減になるのかどうか?大いに疑問ですし、仮に大手プロバイダなどがウイルスをバラ撒いた場合には、ウイルスを作成していないということでウイルス作成罪とは無縁となったら、世論は納得しないでしょう。
だからと言ってウイルス頒布罪とかウイルス作成幇助とか言われたら、これはネットワークを萎縮させるだけで、いいことは何もないのではないか?と思います。
そうなると、ウイルス作成罪はどうなんだ?という疑問が強くなって来ます。

個人情報法といい、ウイルス作成罪といい、著作権問題(CD輸入禁止)といい、いま話題になっている法律の多くが、どうもうまくバランスが取れていなのでないか?と強く感じて仕方ありません。

Posted by: 酔うぞ | 2004.06.01 at 12:12 PM

産経新聞より

http://www.sankei.co.jp/news/040601/sha065.htm

「ウィニー開発者の保釈決定 京都地裁」
>保釈保証金は500万円。

ずいぶんまた安い保釈金という気がします。

Posted by: 酔うぞ | 2004.06.01 at 03:35 PM

「ウイルス作成罪」は、問題は一般向けにそういう名称でありながら条文の定義がはるかに広範なものを指している、という重大な問題があります。

極端な話、"copy con con" ですら対象の不正コードと解釈されうると思われます。

Posted by: 崎山伸夫 | 2004.06.02 at 01:56 AM

酔うぞ さん

 コメントありがとうございました。
 まず、保釈が認められたという点は良かったと思います。これで、検察と弁護が対等に法廷で戦える環境は整ったと思います。

 ちなみに、保釈金の金額ですが、相場としては150~250万円で多くは200万円前後ですので、500万円というのは決して安い方ではないと思います。

Posted by: ビートニクス | 2004.06.02 at 04:19 AM

酔うぞ さん
崎山 さん

 コメントありがとうございました。

 ウイルス作成罪(正式名称は「不正指令電磁的記録作成罪」)については、何が「不正な指令を与える電磁的記録
」又は「不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録」にあたるのかが、条文上、極めて不明確であるという問題があります。この点は崎山さんがご指摘のとおりです。
 結局、「不正」かどうかという点が判断される訳ですが、何が「不正」か「不正」でないかは微妙な判断だと思います。

 また、私は、正当な試験のための開発行為も形式的にはこの犯罪に該当するとして摘発されるのではないかと恐れています。特に、フリーで開発をやっている人は、自分が「正当な試験」のためにやっているということを証明することが難しいので、その危険があると思います。

 さらに、刑法等改正案では、自分が製造しなくても、ウイルスを「取得」したり「保管」するだけでも犯罪とされていたりもします。これは行き過ぎではないかと思います。

 なお、これらの点については、日弁連の意見書が参考になります(私も起草に関与しています)。
http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/iken/03/2003_38.html

 この点、サイバー犯罪条約6条2項は、「この条の規定は、1に規定する製造、販売、使用のための取得、輸入、頒布若しくはその他の方法によって利用可能とする行為又は保有が、第二条から前条までの規定に従って定められる犯罪を行うことを目的としない場合(例えば、コンピュータ・システムの正当な試験又は保護のために行われる場合)に刑事上の責任を課するものと解してはならない。」と規定しており、この点についての配慮が窺えます。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty159_4.html

Posted by: ビートニクス | 2004.06.02 at 04:29 AM

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Posted by: Related Home Page | 2013.10.06 at 01:32 PM

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