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2004.07.10

盗聴権限を拡大する必要があるか?

 読売新聞の7月8日付の社説「社会の安全をどう守るのか」 は、治安を守るためには、無防備な現状を改めなければならないと主張し、その例として、欧米並の盗聴を認めるべきことを指摘している(Yomiuri-ON-LNE)。

 すなわち、「欧米の主要国では」「通信傍受も、裁判所の許可による司法傍受が効果的に使われている。安全保障やテロ対策のために、首相や内務大臣の許可による行政傍受の制度もある。」 、「日本の通信傍受法は、裁判官が傍受令状を出す要件や運用上の規制が厳しすぎて、施行から四年になるのに、適用例は数件しかない。名ばかりの法律だ。 」というのである。

 犯罪捜査のための通信傍受のための法律(以下「通信傍受法」という)は、1999年8月に国会で成立した法律であり、確かに、その適用例は決して多くはないが、「数件」という訳でもない。通信傍受法は、毎年、国会に適用した内容を報告することになっており、その報告によると、平成14年は合計4件(それによる逮捕者は合計7人)、平成15年は合計4件(それによる逮捕者は合計14人)の計8件となっている。

 ところが、与党である自民党議員や国家公安委員長などからは、欧米と比較して、現在の通信傍受法は大変に使いにくいと指摘されている。

 確かに、通信傍受法は、最初に提案された際には、盗聴が認められる対象犯罪の範囲が広かったり、手続が緩やかに過ぎる点があったが、修正協議等を通じて、最終的に成立した法律は、かなり限定的なものとなっていることは確かである。
 特に、対象犯罪は、法制審議会で議論されている際には、「死刑、無期懲役又は無期禁錮の定めがある罪又は別表に掲げる罪」とされており、相当に広いものとされていたが、最終的に成立した法律では、これが、(1)薬物関連犯罪、(2)銃器関連犯罪、(3)集団密航関係、(4)組織的殺人の4種類の犯罪類型に限定されており、それ以外の犯罪の捜査では盗聴は使えないことになっているのである。

 これに対して、アメリカでは、9.11以降、テロ事件に対処するために、いわゆる愛国者法(PATRIOT ACT)により、盗聴を含む捜査権限の著しい拡大を行った。もっとも、その後、そのような動きに対して、各地の議会や市民運動の反対が広がったことも確かではある。

 1999年8月の時点で成立した通信傍受法は、その時点では、原案をかなり修正しなければ到底成立する見込みがないものであり、大幅な修正を経て、かろうじて可決・成立したものである。ただ、当時から懸念されていたのは、とりあえず、最低限の法律を通した後、しばらくして、それを修正する形で改正を行って、どんどん、盗聴権限を拡大していこうとするのではないか、という点であった。

 その意味では、警察・検察は、通信傍受法が成立した後、あえて通信傍受令状の請求をほとんど行わないでおいて、「使いにくいから改正すべきである」との意見を述べているのではないかとすら邪推したくなってしまう程である。
 また、実際に、通信傍受令状が発付された事案についても、盗聴によって、「背後の大物」が検挙されたというようなめざましい成果はあがっていないことから、盗聴がそのような捜査にとってどれだけ有効かという点に疑問も呈されているのである。

 ただ、読売新聞という一般紙の社説が、通信傍受法の改正に関する具体的な提言をするような事態となっているこことからすると、通信傍受法改正に向けた動きは、今後、加速度的に進むことが懸念される。

 特に、最近では、裁判員制度の導入が決まったことと関連して、日弁連は、被疑者取調べの際に、取調べ状況を録画・録音すべきであるという「取調べ可視化」が必要であると主張している(「取調べ可視化」についての意見書)。

 これに対して、最近、法務省では、取調べの可視化を認める代わりに、それと同時に、刑事免責や新たな捜査手法を導入しようという動きがあると伝えられている。そして、この新たな捜査手法の中には、盗聴おとり捜査潜入捜査が入っていると思われる。
 そうであるとすれば、この動きの中で、通信傍受法の改正が具体的に政治日程にあがってくることは大いに予想されるのである。

 我が国は、既にサイバー犯罪条約に批准することを国会で決議して決めている。特に、サイバー犯罪条約が、リアルタイムの盗聴を認めていることとの関係でも、わが国の通信傍受法では十分に対応できていない面があるので、サイバー犯罪条約の存在も、通信傍受法の改正を後押しすることになることが予想される(MSN-Mainich INTERACTIVE)。

 我が国は、第二次世界大戦中に、国家権力が国民のプライバシーを踏みにじった経験から、わざわざ、「通信の秘密」を憲法21条2項で保障しており、これは世界でも珍しい規定だと言われている。

 盗聴は、人と人との間で交わされる最もプライベートなコミュニケーションに対して国家が直接介入する捜査手法であり、それを「治安」などという抽象的な利益のために、これを安易に広く認めることは極めて危険であり、通信傍受法の改正に向けた動きには十分な注意を払う必要がある。

【today's back music】
 ERIC DARIUS/NIGHT IN THE TOWN (EMI 72435-76758-2-6)
 まだ、弱冠21歳の若手テナー奏者のアルバムで初めて聴きましたが、サウンドはパーカッションも入った華やかなもので一気に聴かせます。以前、日本のCHICKENSHACKも演奏していた「Love TKO」(LOVING POWER II:meldac:MECA-30003)もいいアレンジで懐かしく思いました。

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Comments

エシュロンは辞書データベースを持ち、この辞書データベースに登録された文字列を含む電子メールを盗聴している。
この辞書データベースに電子メールアドレスが登録された場合、この電子メールアドレスに対して送受信される電子メールが盗聴されることになる。
盗聴された電子メールには登録済みの電子メールアドレスだけでなく未登録の電子メールアドレスが含まれている。
この未登録の電子メールアドレスをエシュロンの辞書データベースに登録し、盗聴できるようになる。
エシュロンの辞書データベースに登録済みの電子メールアドレスに電子メールを送受信するだけでエシュロンに盗聴されることになる。
このようにしてエシュロンは、人知れずに盗聴範囲を拡大している。
エシュロンが盗聴している電子メールアドレスを変更しても、エシュロンは登録されている電子メールアドレスを盗聴する。
変更後の電子メールアドレスを利用して辞書データベースに登録されている電子メールアドレスに電子メールを送受信することで、エシュロンは電子メールを再び盗聴できる。
一度に送受信する全ての電子メールアドレスを変更することは現実的ではない。
よって、エシュロンの盗聴から逃げ出すことはできない。
これがエシュロンと電子メールの危険性である。
エシュロンとメールシステムの危険性を指摘する”エシュロンキラー”の原作を公開するホームページを作成しました。
アドレスは、以下のとおりです。
http://www.geocities.jp/internetshow2000/
これを公開することで多くの人々にエシュロンの危険性の認識を喚起したいと考えています。
つまり、この原作を小説化にして社会に出したいと考えています。
そこで、この原作を小説化していただける著作者、編集者を探しています。
ぜひ、ご一読をお願いいたします。
ご意見、ご感想があれば、ゲストボックスまたはメールにて承っています。
どうかよろしくお願いいたします。

Posted by: 名無しのコン太 | 2009.06.07 at 04:30 PM

Maybe you don't like her, but Lindsay Lohan will indeed be playing screen legend Elizabeth Taylor in the Lifetime movie Liz and Dick. Filming is set to begin June 4. They're still trying to cast Richard Burton. Who do you think would be a good pick?

Posted by: Lindsay Lohan Gallery | 2013.01.14 at 04:28 AM

It's going to be end of mine day, but before finish I am reading this fantastic paragraph to increase my know-how.

Posted by: donaupark | 2013.07.04 at 03:19 PM

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