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2004.11.02

イラク人質事件はなぜ起きたか?

 イラクの武装グループが拉致していた日本人男性について、10月31日、バグダッド市内で首を切断された遺体が発見され、日本政府が指紋などから香田さんであると確認した。武装グループは、48時間以内に、イラクに駐留する自衛隊の撤退を要求していたが、小泉首相は、当初から自衛隊を撤退しないと明言していた。最悪の結論だった。

 この日本人男性の家族は、「支えていただきました多くの方々に大変なご心労をおかけしましたことを心からおわび申し上げますとともに、お礼と感謝の気持ちでいっぱいです。このようになりましたが、イラクの人たちに1日も早く平和が訪れますようにお祈りいたしております」とのコメントを出している(NIKKEI NETの記事)。

 この家族のコメントについて、勘繰り屋さんは、

なぜ香田さんの家族が声明で政府批判をしなかったか。 おそらくしたくともできないからです。 政府批判をしようものなら、以前に起こった人質事件で被害者となった人とその家族のように、世論による轟轟たる非難が待ち受けていることがわかりきっているからです。

と述べているが、全く同感である。被害者の家族が「お詫び」をして、どこまで本気でやってくれたか疑問の残る救出作業に対して批判することすら許されない雰囲気があることを示している(これは、以前の人質事件における「自己責任」論によって増幅された)。

 この点については、天木直人さんの「マスメディアの裏を読む」でも、

それにしても今回の事件における世論の冷ややかさは異常である。息子を殺された親が「すみません」と世間に頭をさげている。イラク人を前にして「早く平和が来ること」をお願いしている。誰が平和を壊したのか。誰の為に息子は殺されたのか。同じように首を切り落とされた韓国の青年の親を見よ。泣き喚いて政府を批判した。それが本当の感情であろう。本当の事を表現できない日本とはなんと言う国か。

と述べられているが、本当に、日本において、自由にものが言えなくなっている現状を改めて痛感させられる。

 小泉首相は、「政府としては最善を尽くした」と述べているが、極めて疑問である。特に、今回の政府の対応では、遺体発見の人違い発表が最悪だった。
 政府は、10月30日未明に、イラクの武装グループに拘束された日本人男性とみられる遺体がバグダッド北方のバラドで発見されたことを明らかにした。これは、その後、全く別人の遺体(日本人ですらなかった)であったことが判明するが、この情報の錯綜と、日本政府の対応が、拉致された日本人男性の殺害を早めたのではないかとも考えられる。

 この点については、昨日発行の「日刊ゲンダイ」3面は、「遺体誤認が…殺害早めた?」との記事を掲載し、

 このいいかげんな発表により犯行グループは日本政府が何か罠を仕組んでいると混乱し…殺害を早めた可能性か強まっているのだ。

と述べている。武装グループとすれば、日本で大々的に死亡情報が報道されていることを知って驚き、犯行に及んだことは十分に考えられることであり、政府の情報管理の甘さと混乱がその結果を招いたかもしれないのである。

 他方、「週刊ポスト」11月12日号(11月1日発売)は、「緊急レポート・繰り返された『日本人人質事件』」という記事の中で(同41頁以下)、外務省筋の話として、

「外務省は邦人のイラク出入国を正確に把握できており、(被害男性・記事では実名)入国の情報は、その直後に得ていた。どうやって本人に退避勧告を伝えるか検討しているさなかの事件だった」、「実は政府はその間、連絡方法を検討していただけでなく、(被害男性)の素性を探っていた。というのも、イラクには現在、ほぼ同じ年格好の青年がひとり滞在しており、この青年は共産党と関係が深いことがわかっている。政府部内では人質が(被害男性)か、その青年かを特定できず、青年だった場合は共産党が主張する自衛隊撤退を政府に迫るための自作自演の可能性があるとみていた」

とのコメントを掲載している。これが事実であればとんでもないことであるが、政府がそんな詮索をしている内に、被害者は殺害されてしまったのである。これでは、「最前を尽くした」と言われても、到底、その言葉を信用することはできない。

 ところで、今回の人質殺害事件は、これで終わりではない。いよいよ、日本からイラクに派兵された自衛隊が次の標的になろうとしているのである。天木さんは、次のように警告している。

小泉首相と外務省、防衛庁は震え上がっていることであろう。日本が反米武装組織の敵になったことが今回の事件ではっきりした。彼らの最後の標的はサマワの自衛隊である。

 現在、自衛隊はサマワに駐留しているが、ほとんど外に出ることもなく、何の「人道支援」もしていないで、そこに駐留していることだけが自己目的となっているかのようであり、サマワ市内でも批判が渦巻いているという。

 これまでも、自衛隊の宿営地の近くに、迫撃弾が、合計8回打ち込まれていたが、その着地点が徐々に近づいてきていた(これは警告の意味があるとの指摘もある)。
 そして、遂に、日本時間11月1日午前4時半(現地時間10月31日午後10時半)ごろ、ロケット弾が、宿営地内で倉庫として使用しているコンテナの一部に打ち込まれて破損しているのが発見されたという(NIKKEI NETの記事)。

 サマワに派兵された自衛隊は、本年12月14日に駐留期限を迎えるが、政府は既に駐留期限を更新することを決めている。しかしながら、自衛隊の宿営地内に迫撃弾かロケット弾が打ち込まれたことで、もはや、サマワも「非戦闘地帯」ではないとは言えなくなってきているのである。

 イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法(イラク特措法)2条は、 この法律に基づく人道復興支援活動又は安全確保支援活動は、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域(非戦闘地域)でなければできないことになっている。

 今回の人質殺害事件が、バグダッドで拉致された後敢行された事件であることからすれば、バクダッドが「非戦闘地域」でないことは明らかであるし、自衛隊の宿営地に対して迫撃弾等が打ち込まれたサマワについても、もはや「非戦闘地域」ではないと言う他ない。これまで、サマワだけは「非戦闘地域」だと強弁していた政府も、これ以上強弁を続けることは困難であろう。

 PPFV PROGさんが転載しているイラクのモハメド医師からのメールは、この点を私たちに率直に伝えようとするものであり、心を打つ内容である。

イスラム教の指導者たちの調整が機能していない状態にあり、事態は最悪です。その原因は、ほとんどの指導者が刑務所に送られ、残りはイラク国外に逃げてしまったことです。だから、イラク国内には、アメリカ軍のための軍隊か、テロリストしかいないんです。私たちの現状を想像できますか? お金のための軍隊か、米軍をイラクから追い出すための軍隊しかいないのです。もうイラクに日本の人を送らないでください。(中略)もちろんのこと、外国人が殺される確率は、それよりも高くなっています。だから、全ての日本の方に、自重してイラクから離れることをお願いしています。そして、日本軍の早期撤退をお願いします。イラクの状況はより悪化していくので、軍人だろうと安全ではなくなるでしょう。彼らの命も守ってください。

 このように見てくると、アメリカに追従するだけで、イラクの現地の声を聞こうとしないで、自衛隊の派兵を決め、さらに、その駐留期限延長を決めようとしている日本政府の姿勢こそが、今回の人質殺害事件を引き起こした原因だと評価することができるだろう。

 ところが、マスコミは、日本政府の批判を表立って書こうとしていない。被害者の家族すら、日本政府を批判するコメントをすることができない。こんな息の詰まるような雰囲気の中で、私たちは「生かされる」のである。改めて、日本の置かれた閉塞状況に暗澹とならざるを得ない。今回の人質殺害事件は、本当に悲しい出来事であったけれども、今の日本の状況を照らし出す役割を私たちに果たしてくれたと受け取りたい。

【Today's Back Music】
 鈴木良雄MOON AND BREEZE(VACV-1047)
 鈴木さんの音楽生活35周年を記念する新譜。今作でも美しいメロディーと心優しい演奏で私たちを包んでくれます。それは平和への願いを伝えるかのように。

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Tracked on 2004.11.09 at 10:56 PM

Comments

>特に、今回の政府の対応では、遺体発見の人違い発表が最悪だった。
私は夜中の高島報道官記者会見を生で見ていましたが、「詳しいことはまだわからない」の1点張りでかなり慎重な態度でした。また、現地アメリカ軍報道官も「詳しいことはわからない」を繰り返していました。確かに「香田さん発見か?」と官邸周辺色めきたってはいましたが、それは止むを得ない対応でしょう。むしろ勇み足は、緊急呼出しに応じて外務省に着いたとき報道陣に「悪い知らせのようだ」とポロッと言ってしまった外務省幹部(もちろん非公式発言)と、それを鵜呑みにした共同通信社だったと思います。(http://d.hatena.ne.jp/kanryo/20041030#p1)。
もちろんドタバタの原因はイラクでの政府の情報収集能力の欠如にあり、その遠因は一連の(理不尽な)戦争によるイラクの混乱にあるでしょう。しかし、「現在の」イラクで「大使館員は街に出て調査せよ」というのは危険すぎるでしょう。是非はともかく、アメリカ軍の調査待ちというのは仕方ないと考えます。
それらのこともあって、今回の件について「政府の誤報」ないし「人違い発表」という表現がちょっと違うのではないか、と思いコメントいたしました。
長文、失礼致しました。

Posted by: moribe | 2004.11.03 at 10:19 AM

moribeさん
 コメントありがとうございました。
 政府の誤報は言い過ぎかもしれませんが、記者会見等を開いたり、与党への説明では、ほとんど被害者であると特定するような説明をしていたようであり(これが共同通信社の誤報に繋がったのではないかと推測します)、私自身は、やはり、政府の情報管理のまずさに問題があったと考えています。ご指摘ありがとうございました。

Posted by: ビートニクス | 2004.11.04 at 11:02 AM

口先批判は簡単ですが、東京の安楽椅子でぬくぬくしながらパソコンの前で眉をひそめてみせている一部の人々よりは、直接見えない部分が大きいのでしょうが、救出のために努力した日本政府担当者の方々のほうが、はるかに評価に値すると私は思います。

Posted by: naka | 2004.11.05 at 11:10 PM

nakaさん
 はじめまして。コメントありがとうございます。
 誰をどう評価するかは自由です。ただ、政府関係者は、国民の生命・身体・財産を守るべき立場にあり、人質の救出のために努力すべきことは職務です。私たちも、みんな自分の職務という面では一生懸命やっている訳であり、それを比較しないで、「東京の安楽椅子でぬくぬくしながらパソコンの前で眉をひそめてみせている」面を比較するのはフェアーではないと思います。

Posted by: ビートニクス | 2004.11.06 at 02:25 AM

たびたび失礼致します。
(1)
先日私は「・・今回の件について『政府の誤報』ないし『人違い発表』という表現が・・」と書きましたが、山下先生は、「政府の誤報」という表現はどこにも書かれていません。これこそ私のとんだ勇み足でした。失礼致しました。
(2)
さてその共同通信社、担当者を処分したようです。
http://www.asahi.com/national/update/1108/009.html)
「編集局長、ニュースセンター長、政治部長らを更迭」というもの
。かなり重い処分ですね。
共同通信社が本件を、重大事件としてきちんと把握していることの現われと思われますので、その点は評価できるのではないかと思います。

Posted by: moribe | 2004.11.09 at 02:04 AM

moribeさん
 コメントありがとうございました。
 共同通信の誤報の経緯については、下記にも指摘されていますが、与党幹部が、発見された遺体が日本人人質被害者だと認めたことのようです。ただ、この与党幹部は、細田官房長官による与党への説明に基づくものですから、やはり、政府の情報確認とその伝達のあり方に問題があったと思います。
 もちろん、確実でない時点で、他社に先駆けてスクープを出そうとして結果的に誤報となった共同通信社にも問題があることは確かですが。

Posted by: ビートニクス | 2004.11.10 at 02:42 AM

 追伸です。
 西日本新聞のおわび文の中に、共同通信社の誤報の経緯が書かれています。下記のブログに出ていました。
http://www.uchida.gr.jp/weblog/archives/2004/11/post_29.html

Posted by: ビートニクス | 2004.11.10 at 02:45 AM

 共同通信社が、自社の誤報について、詳細な検証記事を発表しました。誤報について自社において検証することは今後の誤報の再発防止の為には重要なことであり、この試みは評価して良いと思います。かなり厳しく自社の取材態勢を検証しています。
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM&PG=STORY&NGID=soci&NWID=2004110901003961

Posted by: ビートニクス | 2004.11.10 at 08:14 AM

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