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2004.12.10

開示証拠の目的外使用は不適切か?

  少し古い報道(京都新聞)になるが、いわゆるWinny事件の正犯について、11月30日、京都地裁は、著作権法違反(公衆送信権)の罪に問われていた被告人に対して、懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)の有罪判決を言い渡した(弁護人の奥村弁護士のブログによると確定するようである)。

 ところで、この判決言い渡しの際に、楢崎康英裁判長は、異例とも言える弁護人批判をしたことが伝えられている。すなわち、弁護人の弁護活動を批判し「強く自戒を求める」として、ウィニー開発者ら第三者に捜査報告書や起訴状の写しを送ったのは捜査の秘密保持などの点から不適切などの意見を述べたという。

 既に、落合洋司弁護士は、そのブログで、刑事訴訟法や刑事訴訟規則を踏まえて、

「判決」という場で、上記のような条文の趣旨をはみ出して、しかも、当該弁護人に対する告知・弁明の機会を与えないまま、その弁護活動を批判することが許されるか、については、私は、疑問を感じているところである。

と述べている。

 ただ、私は、裁判官が判決の際に、弁護人の弁護活動批判をすることができるかという点よりも、この事件で、どうして、裁判長が、わざわざ弁護人批判をしたのかという点に関心があったが、12月6日付の「刑事司法の改悪に反対する全国弁護士ACTION」通信25号(まだ、ホームページでは読めない。24号はココで読める)が、改正刑事訴訟法の「開示証拠の目的外使用禁止」の先取りであると記載しているのを読んで、ようやく腑に落ちた。 

  先の第159通常国会において、司法改革の一環として、刑事訴訟法の改正が行われ、次のような「開示証拠の目的外使用禁止」の規定が新設された(来年秋に施行予定)。 

第二百八十一条の三 弁護人は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等(複製その他証拠の全部又は一部をそのまま記録した物及び書面をいう。以下同じ。)を適正に管理し、その保管をみだりに他人にゆだねてはならない。

第二百八十一条の四 被告人若しくは弁護人(第四百四十条に規定する弁護人を含む。)又はこれらであつた者は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
  一 当該被告事件の審理その他の当該被告事件に係る裁判のための審理
  二 当該被告事件に関する次に掲げる手続
   イ 第一編第十六章の規定による費用の補償の手続
   ロ 第三百四十九条第一項の請求があつた場合の手続
   ハ 第三百五十条の請求があつた場合の手続
   ニ 上訴権回復の請求の手続
   ホ 再審の請求の手続
   ヘ 非常上告の手続
   ト 第五百条第一項の申立ての手続
   チ 第五百二条の申立ての手続
   リ 刑事補償法の規定による補償の請求の手続
  前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。

 第二百八十一条の五 被告人又は被告人であつた者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、前条第一項各号に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 弁護人(第四百四十条に規定する弁護人を含む。以下この項において同じ。)又は弁護人であつた者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、対価として財産上の利益その他の利益を得る目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときも、前項と同様とする。

 これまで、検察官開示証拠については、その利用を制限する法的規制はなかったが、刑事訴訟法改正により、来年秋以降は、弁護人に開示記録を適正に管理する義務が生じ、当該被告事件の審理以外には使用することが禁止され、違反した場合には罰則まで設けられるという徹底した法的規制が行われることになる。

 この改正について弁護士からの反対は強く、一部修正されたものの、最終的に、開示証拠の目的外使用禁止の規定はほぼそのままの形で存続することになってしまった。
 これは、例えば、冤罪を訴える被告人や弁護人が、新聞記者やフリージャーナリストに記録を見せることも禁止されることから大きな問題があることが指摘されていた。

 Winny事件の判決言渡しの際の裁判長の弁護活動批判については、捜査報告書の写しを共犯者に送付したのは開示証拠の目的外使用に当たるから、そのような弁護活動は不適切であると言いたかったのではないかと思われる。確かに、上記の改正刑事訴訟法の規定からすると、共犯者に提供することは「目的外使用」になる。

 つまり、まだ施行されてはない改正刑事訴訟法の「開示証拠の目的外使用禁止」の規定を先取りし、弁護人に対して釘を指しておきたかったのではないかと考えられるのである。
 このように考えると、裁判長が、あえて「異例」とも言える弁護人に対する弁護活動批判の意見を述べたことも理解できない訳ではない。

 しかしながら、そもそも、どうして検察官から開示を受けた証拠について、目的外の使用が禁止されなければならないのだろうか。特に、それが公判で証拠として採用されて、法廷で取調べ(朗読)を受けた後においてさえも、それを当該事件以外には全く使用することが許されないのだろうか。

 かつて、私は、この規定について、次のように述べたことがある(私のホームページ「刑事訴訟法改正により刑事裁判はどう変わるか」)。

そこに見られるのは、検察官が持っている訴訟記録は検察官の支配下にあるもので、それを裁判以外の目的で自由に使用することを許さないという極めて古い発想であり、情報公開の流れに逆行する内容である。

 いずれにしても、裁判官が、公開の法廷で、まだ施行もされておらず、その内容自体に問題があると思われる「開示証拠の目的外使用禁止」を先取りして、弁護人の弁護活動を批判するというのは大きな問題があると言うべきであり、今回の裁判長の異例の意見表明はもっと批判されるべきである。

【Today's Back Music】
 土岐麻子/STANDARDS ON THE SOFA(LDCD-50002)
  ジャズサックスプレイヤーであり、父である土岐英史さんをプロデューサーに迎えたジャズ・カバーアルバム。前作「STANDARDS」も良かったですが、今回もアレンジが冴えており、土岐さんのSaxも絶妙です。

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「刑事裁判」カテゴリの記事

Comments

お久しぶりです(^^;)

私もそもそも目的外?使用を禁止する理由が分かりません。
捜査の秘密保持と言っても、捜査は既に終了し、舞台が公開の法廷に移った後であれば、それがどの程度説得力を持つのか分かりませんし、当事者のプライバシーについても、当人の了解を得るとか、プライバシーを侵害しない範囲・態様での使用などは十分考えられるはずです。

さらに言えば、そもそも検察官が手持ち証拠の開示を渋るという現状自体疑問に思わざるをえません。

Posted by: toriatama | 2004.12.22 at 07:22 PM

toriatamaさん
 コメントありがとうございました。
 公開の法廷で取り調べられ朗読された捜査報告書や供述調書の「目的外使用」が禁じられる理由が私にも理解できません。
 捜査機関が収集した証拠は、国民の税金で収集したものですから、個人のプライバシーを侵害しない範囲で広く公開されてしかるべきものだと思います。
 その意味で、全く同感です。

Posted by: ビートニクス | 2004.12.26 at 01:26 PM

前略、最新の週刊金曜日に、高知検察庁の北添副検事が、スクールバスの井上芽衣さんの指紋と署名を捏造した証拠が掲載され、国家賠償訴訟でも証拠提出されました。これは、梶原弁護士が鑑定人に依頼し、判明していたことですが、下記の規定により、弁護士として、告発できなかったという経緯です。検察庁は、下記の弁護士会主張の規定で、白バイ事件の封じ込めにかかることが可能です。この規定は、片岡さんと弁護士さんへの罰則規定であり、その調書を受け取った人は参考人となります。

 この弁護士会の改革案に賛成票を投じないと、こうした、警察犯罪、検察犯罪はなくなりません。白バイ事件は、高知の修復的司法にとって、またとないチャンスがめぐってきている状況なのです。
 片岡さんは、虚偽公文書行使罪の未遂罪の告訴権者であり、井上芽衣さんは、虚偽公文書作成罪に告訴権者になります。事項は、7年なので、片岡さんが、社会に出た後などのタイミングを見計らって、検察犯罪として、きちんと裁判で認定させる必要があります。高知県の憲法闘争を応援してください。


会長声明集 Subject:2004-04-09
刑訴法改正法案から証拠の目的外使用条項の削除を求める会長声明2004年代の次の項目へ
- 被告人の防御権を制約し、刑事手続の検証を困難にする「開示証拠の使用制限」条項の修正を強く求める -

本年3月2日に国会に提出された刑事訴訟法改正法案には、刑事手続において開示された証拠の複製等を、被告人若しくは弁護人が審理の準備以外の目的で人に交付、提示すること、電気通信回線を通じて提供することを全面的に禁止し、被告人がこれに違反したときには懲役刑を含む罰則を科す条項(開示証拠の使用制限条項)が含まれている。その立法趣旨は、供述調書などを対価を得る目的で第三者に売却したり、被害者や第三者のプライバシーを含む証拠をインターネット上で公開するなどの弊害に対処
するためと説明されている。当連合会は、こうした弊害を防止するために必要な範囲で開示証拠の使用制限条項を設けること自体に反対するものではない。

しかしこの条項は、証拠の内容を問わず、また公開の法廷に提出された証拠か否かを問わず一律に使用禁止の対象としていることから、その使用理由が如何に正当なものであったとしても、審理の準備以外の目的で開示証拠を使用することは全て禁止されることになり、被告人の防御権を不当に制約することは勿論、裁判公開原則や報道の自由とも抵触するおそれが大きい。

例えば、本年3月30日付け東京新聞は、東京区検の検察官が被疑者の供述調書を改ざんした事案を報じ、改ざんされた部分の調書の写しを掲載している。こうした報道が、捜査機関の重大な違法行為を国民に明らかにし、刑事手続の公正を確保するため大きな意義を持つことは明らかであるが、改正案によれば、このような報道は行うことができないこととなる。

また、無罪を訴える被告人が、支援を求める文書等において、有罪の根拠とされている鑑定書や被告人自身の供述調書の一部を引用することは現在広く行われている。こうした言論活動は、被告人の防御にとって重要な意味を持つものであるが、改正案によれば、こうした言論活動も全て禁止の対象となる。

ところで、同様に国会審議中の裁判員法案では、裁判員に対し評議の経過全般について守秘義務を課し、かつ罰則に懲役刑を含めるなど、裁判員裁判の検証を困難とする過度な規制となっており、当連合会は、守秘義務の範囲の限定と懲役刑の削除を求めている。開示証拠の使用制限条項も、裁判員の守秘義務の問題と同様に、権力行使の場である刑事裁判手続について、必要な情報を主権者である国民に公開して検証することを困難とさせるものであり、裁判員制度の導入が目指している「国民に開かれた司法
」の理念に逆行するものである。

当連合会は、国会に対し、正当な理由のある開示証拠の利用については禁止対象から除外する修正が図られることを強く求めるものである。

2004年(平成16年)4月9日

日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛

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