« 「性犯罪者」情報を公開すべきか? | Main | 東京地検特捜部には任意事情聴取者の自殺の責任はないのか? »

2005.01.24

「性犯罪者」情報を公開すべきか?(2)

 奈良の小学生殺害事件の被疑者が未成年者誘拐罪で逮捕された後(この被疑者は既に起訴されて、現在、殺人・死体遺棄容疑で再逮捕されている)、「性犯罪者」情報の警察による把握等の制度化に向けて、一気に突き進んでいる。

 以下、報道を参考にして、最近のこの問題についての動きを整理してみよう。

【小泉首相】
 1月11日 性犯罪者の服役後の住居情報について「少なくとも警察ではしっかりと把握する必要がある」と述べるとともに、「住民に知らせるのは問題で、米国でやっているようなものはなかなか難しい」と述べる。
 1月17日 法務、警察両省庁幹部を首相官邸に呼び、性犯罪前歴者の出所後の居住地情報を法務省が警察庁に提供することについて「そういうシステムは必要だ。犯罪の抑止、防止について両省庁で協力してやってほしい」と述べ、新たな情報共有システムの構築を指示した。

【警察庁の動き】
 1月11日 法務省に対して、前歴者の居住地を把握する制度の導入に関して、協議を申し入れる。
 1月13日 専門の検討チームを発足させ、強姦や強制わいせつなど、13歳未満の者に対する性犯罪の容疑者の再犯状況を調査し、出所後の住所など前歴者の情報を警察が把握できる仕組みをつくり、情報の有効活用を検討する予定。

【警察庁・法務省の動き】
 1月13日 警察庁から近藤善弘生活安全企画課長ら3人、法務省から林真琴矯正局総務課長ら矯正、刑事、保護の各局課長4人が出席して行われた第1回目の協議で、法務省は、警察庁への性犯罪者の出所後の住居情報の提供を了承した。今後、情報提供の条件や範囲、具体的運用方法について協議を続ける予定。

【法務省の動き】
 1月23日 性犯罪で服役して仮出所した出所者の保護観察を強化する方針を固める。出所中の性犯罪者に対しては保護観察官が直接指導を行うことにした。また、保護観察官や保護司に対する研修を充実させるとともに、性犯罪者向けの指導プログラムの研究・開発に向けて、専門家の意見を聞くための有識者会議の設置も検討することを決める。 

【自民党の動き】
 1月18日 自民党法務部会(部会長・平沢勝栄衆院議員)が、性犯罪者の再犯防止を目的とした議員立法を検討する方針を決める。性犯罪者が服役後出所した直後の居住地情報を、地元の学校や住民の一部に開示することも検討対象とする。

【公明党の動き】
 1月19日 公明党の拡大法務部会で、警察による性犯罪受刑者に関する情報共有システムを確立すると同時に情報の濫用を防ぐため、議員立法の検討を始める。性犯罪受刑者が出所後に住所を移転する場合、警察への届け出を義務付けることや、情報の目的外使用の禁止を明記することなどを検討する。 但し、自民党法務部会が立法化を検討している性犯罪受刑者の出所後の居住地情報を地域住民に公開することについては、「プライバシー面で困難」との見解
で一致したという。

 このように、今年に入ってから、2週間程度で、この問題については、既に、法務省から警察庁に対して、性犯罪者の出所直後の居住地情報を提供することについては制度化されることが決まっており、今後は、アメリカの「メーガン法」(又は「ミーガン法」。これについては、このサイトが詳しい。)のように、その情報を地域住民に対して公開するかどうかが、通常国会の中で、与党からの議員立法の動きの中で焦点化するだろう。

 ただ、これらの一連の動きの中で、常に、「性犯罪の再発防止策として」という用語が用いられている点が大変に気になる。
 それは、警察庁が、法務省から、性犯罪者の出所直後の居住地情報の提供を受けるだけでは直ちに「再犯防止」に繋がるとは考えられないからである。

 警察は、法務省から提供される居住地情報を考慮して、街頭パトロールの際には注意するだろうが、それだけでは、再犯を防ぐことはできない。それを本気でしようとするならば、警察による「性犯罪者」による出所者に対する24時間体制による監視しか考えられない。しかし、現在の警察の体制で、それが可能になるとは考えられないし、コストという面から見ても無理がある。

 したがって、「再犯防止」を掲げる以上は、警察が「性犯罪者」情報を把握しているだけでは不十分であり、地域住民に対して、その情報を開示することが不可欠であるという議論が必ず出てくるはずである。現に、自民党の法務部会は、既にその線での議員立法を考えていることが報道されている。もっとも、同じく与党である公明党はそれに反対しており、今通常国会では、この点の結論は出ないかもしれないが。

 それにしても、性犯罪を犯して刑務所に行った者については、一生、警察に居住地を把握され、監視され続けることになることは間違いないだろう。性犯罪についての再犯率が、他の犯罪よりも高いとしても、再犯を犯さない者もいることを考えると、どうして、性犯罪者についてだけ、このような不利益を課すことが許されるのかが、「法の下の平等」を保障した憲法(14条)との関係で問題にならざるを得ない。

 また、逆に、最近では、性犯罪者に限らず、殺人や放火等の重大な犯罪を犯した者についても対象を広げるべきだという議論も出てきていることにも注意しなければならない。

 いずれにしても、今回の動きは、小泉首相のコメントで方向性が決まり、一気に制度化に向けて突き進んでいる。この手際の良さを見ると、奈良の事件が起きる前から予め準備されていて、国民世論にアピールできる適当な事件が起きたことをきっかけに、具体的にそのプログラムが実行されているだけではないかと危惧せざるを得ない。NHKの「ETV2001」の改竄をめぐるNHKと朝日新聞とのバトルも、この問題を隠蔽する役割を果たしているようにも思えてならない(もちろん、NHK問題も重要な問題であることは確かではあり、いずれ取り上げたい)。

 法務省から警察庁への性犯罪者情報の提供は早ければ年度内(3月末まで)に開始されるという報道もされている。どうして、このような全く新しい制度を作ることをそんなに急ぐのか。性犯罪者であっても刑を受け終えた者に対して、あまりにも不利益を課す制度を作るにあたって、不利益を受けることになる彼らの言い分や意見を聞かないで決めて良いのか、など疑問は尽きない。

 この問題は、もう少し冷静な状態で、多様な意見を集約し、慎重に議論した上で決めるべきだと思われるが、結論を決め、一気に突き進む小泉政権のやり方は、あまりにも拙速であると言わなければならない。

【Today's Back Music】
 Smooth Jazz Express VOL.1(SDCF-1015)
  ニール・ラーセン(Key)とバジー・フェイトン(G)を中心としたL,A,のミュージシャンがマライア・キャリー、ダイアナ・ロス、マドンナ、ローリング・ストーンズ等の名曲をプレイするという企画もの。懐かしい「フュージョン」の音がしています。

|
|

« 「性犯罪者」情報を公開すべきか? | Main | 東京地検特捜部には任意事情聴取者の自殺の責任はないのか? »

「刑事立法」カテゴリの記事

Comments

マスコミの犯罪報道ではインターネット関係、
性犯罪(盗撮・覗き・痴漢といった微罪レベルでも)が罪状より大きく取り上げられる傾向にあります。都道府県迷惑防止条例違反では軽すぎる、刑法で処罰しろと言わんばかりの報道も多いです。
そのうち準猥褻とか軽猥褻罪が刑法に追加されそうですね。盗撮・覗きであっても逮捕されれば一生性犯罪者として法的にも排除される時代になるのでしょう。


刑罰強化も確かに必要な面はありますが、結局警察・検察官僚が実績を作って出世し、天下りとか勲章などの栄誉やカネが欲しいだけですね。

Posted by: ボンド13 | 2005.01.24 at 10:24 PM

警察への情報提供があっても、その情報が役立つのは「犯罪発生後」の犯人探しの段階、となれば情報提供によって犯罪予防になることはない、と思っています。
政府ってこういう動きについては「すばやい」対応をします。水俣病やハンセン氏病でもすばやく対応して欲しいものです・・・。
法律の勉強をしていると「必要性」だけではなく、かならず「許容性」に注意しろ、といわれますが、最近は「必要性」ばかりを強調していて危なかしさを感じます。
なお、幼児性愛に関する7カ国アンケートとその分析に関する非常に興味深い文章を見つけました。もしよろしければご覧下さい。
http://kiri.jblog.org/archives/001348.html#more

Posted by: moridaira | 2005.01.25 at 11:21 PM

ボンド13さん
 コメントありがとうございました。
 「結局警察・検察官僚が実績を作って出世し、天下りとか勲章などの栄誉やカネが欲しいだけですね」との指摘、全く同感です。
 今回の措置についても、以前から、警察が欲しかった出所者情報を、奈良事件を利用して獲得したという面が強かったと思います。
 彼らにとっては、出所者情報を既存の運転免許取得者のデータ等と併せて、本格的なデータデータベースとして構築することを考えているのだと思います。

Posted by: ビートニクス | 2005.01.26 at 04:16 PM

moridairaさん
 はじめまして。コメントありがとうございました。
 法律の「必要性」と「許容性」という指摘はその通りですね。必要条件と十分条件ということもできるかと思います。
 確かに、最近は、「必要性」だけを強調して、どんどん法律が作られています。この「許容性」をチェックするべき司法機関(裁判所)がその役割を果たしていないという点も問題です(今日の最高裁大法廷判決もそうです)。
 幼児性愛に関する7カ国アンケートとその分析をご紹介いただき、ありがとうございました。読ませていただきます。今後とも宜しくお願いします。

Posted by: ビートニクス | 2005.01.26 at 04:19 PM

If you want to get a great deal from this paragraph then you have to apply such strategies to your won blog.

Posted by: Dreamhost promo 2014 | 2014.10.08 at 06:23 AM

Hmm is anyone else experiencing problems with the images on this blog loading? I'm trying to find out if its a problem on my end or if it's the blog. Any feedback would be greatly appreciated.

Posted by: free trial match.com | 2015.04.06 at 05:11 AM

こんにちは、はじめまして。
少子化なので、子育て世帯の子どもを逆レイプしてやりましょう。

Posted by: 岡林久美子? | 2016.02.05 at 11:55 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/32945/2676274

Listed below are links to weblogs that reference 「性犯罪者」情報を公開すべきか?(2):

» 「性犯罪者情報公開」再考 [an_accusedの日記]
 beatniks氏のブログ「法と常識の狭間で考えよう」で、奈良市児童誘拐殺人事件以降の政府の動きをまとめておられます。  さてBeatniks氏によれば、過去... [Read More]

Tracked on 2005.01.25 at 03:49 AM

» ミーガン法メモ [kitanoのアレ]
  たとえばあなたの上司があなたの昔の仕事のミスを何度もなんども蒸し返し「だっておまえあのとき迷惑かけたじゃないか! だからオレの言う事を聞け!」と何十年も言わ... [Read More]

Tracked on 2005.01.28 at 03:03 AM

» 「『性犯罪者情報』を公開すべきか?」―コメントに応答して [an_accusedの日記]
 1月24日のエントリーで、「性犯罪歴者の再犯を抑止するのは外部からの監視強化ではなく、性犯罪歴者の心の内面に自己を監視する“眼”を植えつけることが必要である」... [Read More]

Tracked on 2005.01.30 at 04:19 PM

» 「彼」は怯えている [札幌から  ニュースの現場で考えること]
(以下の話は事実だが、「彼」の属性等はいっさい明らかにできない。) 彼が事件にかかわったのは、十数年前だという。まだ若かった。何人かで女性を取り囲み、乱暴... [Read More]

Tracked on 2005.01.31 at 03:35 AM

» 性犯罪をどう表記するか [札幌から  ニュースの現場で考えること]
お気に入りブログの「ある編集者の気になるノート」さんが、昨日の北大生による事件に関連して、「わいせつか、暴行か、強姦か。」という記事を書かれています。性犯罪にお... [Read More]

Tracked on 2005.02.28 at 05:07 PM

» PFI方式刑務所のあり方が [ヒロコです!]
浮かび上がってきました。 23日付新聞に、法務省は日本初の「官民混合経営」刑務所について、警備会社「セコム」など9社でつくる企業グループを建設・運営主体に選んだとの記事がありました。 概要は以下です。 �3階建てで、初犯の男女500人づつを収容する。 �官..... [Read More]

Tracked on 2005.04.24 at 06:42 PM

» 結局、こういうことなんだよな [札幌から  ニュースの現場で考えること]
奈良県の幼女殺害事件などを契機にして、性犯罪者の出所情報をどうするか、という議論があった。それを法務省と警察庁が協議し、この6月から性犯罪については実施することになっていたが、「やはり」というべきか、あっという間に、他の犯罪も対象になりそうである。 出所者情報提供、殺人・強盗など20罪種も追加方針 (読売新聞 5月17日) (以下は引用)。  法務省は16日、再犯防止などの目的で警察庁に提供する受刑者の出所情報について、既に決まっている12歳以下の子供に対する強姦(ごうかん)や強制わいせ... [Read More]

Tracked on 2005.05.17 at 12:40 PM

« 「性犯罪者」情報を公開すべきか? | Main | 東京地検特捜部には任意事情聴取者の自殺の責任はないのか? »