東京地検特捜部には任意事情聴取者の自殺の責任はないのか?
株主の保有比率虚偽記載問題で、東京地方検察庁特捜部の任意の事情聴取を受けていた西武鉄道の前社長が、2月19日に自宅で自殺を図った。
東京地検によると、前社長は、今月上旬からほぼ連日、10回前後の聴取を受け、2月18日も午後8時ごろまで事情を聞かれていた。2月19日には聴取の予定はなかったが、20日に再び聴取が予定されていたという(Yomiuri-ONLINEの記事)。 西武鉄道の関係者は「連日の聴取で疲れ切っているようだった。かなり厳しい取り調べを受けているようだった」と感じていたという(asahi.comの記事)。
マスコミ報道では、東京地検の笠間治雄次席検事の「私どもの捜査遂行の過程で亡くなられたことについて、大変残念に思います。心からご冥福をお祈りします」 とのコメントが紹介されているが、東京地検特捜部の責任を追及するような論調は今のところ見当たらない。
もっとも、サンケイ・スポーツの報道によると、検察側は「前社長はキーマンとはいえず、堤家との関係も深くないから無理な取り調べはしておらず、その必要もなかった。なぜこんなことに」と驚きを隠さないとも伝えられている(SANSPO.COMの記事)。したがって、東京地検特捜部の厳しい取調べが自殺の直接の原因ではないかもしれない。
しかしながら、以前から、東京地検特捜部の長期間にわたる任意の事情聴取は多用されており、この機会にそのような方法は改められるべきではないかと考える。
刑事訴訟法上は、ある犯罪の容疑については、1回だけしか逮捕・勾留することができないことになっている(一罪一逮捕一勾留の原則)。その結果、通常の事件では、最大23日間しか身柄拘束することしか認められていない。
ただ、実際の捜査機関の現場においては、被疑者の「自白」を獲得するために、それよりも長い期間を必要とする場合がある。そのために、軽い別の犯罪容疑で逮捕するという「別件逮捕」という手法が用いられることがある。それについても、一罪一逮捕一勾留の原則を潜脱するために行われるような場合には許されないと考えられている。
ところが、東京地検特捜部の通常の捜査手法は、将来、被疑者として逮捕しようと考えている者を「参考人」として扱って、「任意」で事情を聴取するという方法をとる。これは、「任意」という名の下に、上記のような日数の制限は一切かぶってこないということになる。そして、この方法によって、1ヶ月から数ヶ月程度、「任意」の事情聴取を行っているのである。
しかも、「任意」の事情聴取といっても、実際には、朝から夜まで1日中かけて事情聴取することも多く、簡単に途中退席することも許されず、「事実上の強制」の状態で取調べが行われているに等しい状況であると考えられる。このような取調べが果たして許されて良いのだろうか。
この点については、実は、最高裁判所が、「任意」の取調べについて、捜査機関に対して非常に甘い判断を示していることが、東京地検特捜部のような取調べを容認する根拠となっていると考えられる。
最高裁判所昭和59年2月29日第二小法廷決定(刑集38巻3号479頁)の判例要旨一は(但し、最高裁はその事案に限っての「救済判例」であることが多いので、一般化されるべきではない)、
被疑者につき帰宅できない特段の事情もないのに、同人を四夜にわたり所轄警察署近辺のホテル等に宿泊させるなどした上、連日、同警察署に出頭させ、午前中から夜間に至るまで長時間取調べをすることは、任意捜査の方法として必ずしも妥当とはいい難いが、同人が右のような宿泊を伴う取調べに任意に応じており、事案の性質上速やかに同人から詳細な事情及び弁解を聴取する必要性があるなど本件の具体的状況のもとにおいては(判文参照)、任意捜査の限界を越えた違法なものとまでいうことはできない。
と述べて、このようなケースについてすら、「任意」の取調べとして許されると判断している。
この事例と比較すれば、東京地検特捜部がやっているような、とりあえず自宅に帰した上で、連日のように事情聴取を続けることは、疑いもなく「任意」の取調べということになるだろう。
しかしながら、普通の市民が、このような状態に置かれて、果たして、「自由な意思」に基づいて供述をすることができるだろうか。世界の中でも、このような状態における取調べに「任意性」があるなどと言っている国は珍しいのではないかだろうか。
しかも、日本では、取調室の中は密室であり、どのような苛酷な取調べがなされているのかを後で科学的に検証することもできないのである。
現在、日弁連は、取調べの全過程を録画又は録音するという「取調べの可視化」の導入を強く求めている(日弁連「取調べ可視化」についての意見書)。もちろん、これ自体は、東京地検特捜部の任意の取調べも含めて、直ちに導入されるべきものである。
しかしながら、それよりも前に、日本における取調べについては、「任意性」の概念を根本的に改めるべきである。普通の市民から見て、「事実上の強制」と感じるような状況については、全て「任意性」がないとして違法とされなければならない。
そうであるならば、東京地検特捜部がやっている「参考人」に対する連日の「任意」の事情聴取も直ちにやめるべきである。最高裁が「任意」だと認めたホテルに宿泊させての連日の取調べなど、「任意」のはずがない。
現在、2009年に実施予定の裁判員制度に向けた市民への広報等が行われている。しかしながら、市民を司法に参加させる裁判員制度を実施する前にやるべきことは沢山あるはずである。その一つが、一般の市民の常識に著しく反する「任意性」の捉え方を根本的に改めるべきことである。
今回の自殺は悲劇ではあるが、それを決して無駄にすべきではない。これを教訓に、今後、東京地検特捜部の「任意」による事情聴取による自殺者をこれ以上決して出してはならないのである。
【Today's Back Music】
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私のフェイバリットなグループであるCHICKENSHACKのベスト盤が出ました。これまでも何度も様々なベスト盤が出ていますが、やはり、新しいベスト盤が出る度に買っています。やはり、リマスターで音は良くなっています。最近、よく聴き直しています。
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東京地検の事情聴取後に自殺が起こるというニュースはときどき聞きます。
マスコミの論調は、東京地検に対してはニュートラルで、「亡くなられた方の冥福を心より祈っている」との東京地検のコメントを発表して記事をまとめる。
こう何回も起こると、東京地検の取り調べが問題なのではないかと思います。
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Tracked on 2006.08.18 at 07:13 AM

Comments
以前のエントリですが、関係がありそうでしたので、トラックバックさせていただきました。刑事司法で生じる問題の大半は、報道も含めて「密室司法」に起因していると考えています。それをメディアが主張することなく、勧善懲悪気取りで「ペンを持った捜査員や検察官」になっているところに、病の深さがある、と。
Posted by: 高田 | 2005.02.24 at 02:19 AM
高田さん
トラックバックとコメントありがとうございました。確かに、「密室司法」は大きな問題ですね。ようやく、裁判員制度の導入に合わせて、「可視化」に向けて動き始めているようですが、中途半端な「可視化」はより問題ですので、その行方を見守る必要があると思います。今後とも宜しくお願いします。
Posted by: ビートニクス | 2005.02.24 at 08:25 AM
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