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2005.05.06

弁護人の横に被告人が座って良いか?

 4月28日、東京地方裁判所(合田悦三裁判長)は、殺人被告事件の裁判で、被告人は弁護士の隣に座ってよいとする決定をした(朝日新聞2005年4月28日付夕刊)。

 朝日新聞の記事によると、被告人が弁護士席の隣への着席を認めるのは極めて異例だという。また、同新聞によると、それぞれの裁判所の慣例に従うことが多く、東京などは弁護士席の前のベンチが指定席であり、大阪などでは裁判長の正面に座る形が多く、「お白州型」と呼ばれるという。

 私自身も、刑事弁護を担当することがあるが、長い間、被告人は、裁判長の正面に座るものだと思っており、東京の裁判所では、弁護人の席の前に座らせることから、それだけで十分に「進歩的」な扱いをしているものだと思っていた。

 その意識を、根本的に変えさせられたのは、アメリカの裁判所で刑事裁判を傍聴した時だった。数年前に、私は、アメリカのワシントン州のシアトルの裁判所で、刑事裁判を何件か傍聴したことがある。

 そこでは、被告人は、裁判が始まるよりもかなり前に、身柄拘束されている被告人は手錠を外されて、弁護人が座っている席の隣に座っていた。アメリカでは、映画でも見れるが、弁護人席と検察官席はほとんど隣合わせで、裁判官席の方に向いている。
 時々、申立てを審理するために、検察官と弁護人が裁判官席の方に移動することがあるが、その場合にも、被告人も、弁護人と一緒に裁判官席に移動していた。

 このような様子を見て、私は全く違和感を感じなかっただけでなく、むしろ、本来、刑事裁判はこうあるべきだと確信した。
 被告人が、弁護人と引き離されて、ぽつんと座らされている日本の刑事裁判こそが異常であり、被告人が弁護人の隣に座って、何でもすぐに打ち合わせができるアメリカの裁判の状態こそが当たり前の姿なのだと痛感した。

 日本の裁判でも、民事裁判では、それぞれの代理人席の隣に本人が座ることはよくあることであり、特に違和感は感じない。ところが、日本の刑事裁判では、それが当たり前ではないのである。

 東京地裁が、弁護人席の隣に被告人が座ることを認めた事件は、被告人は保釈が認められていて、自由の身になっている事件である。少なくとも、そのような身柄事件ではない事件については、当然に、弁護人の隣に被告人が座ることを認めるべきである。

 それだけではなく、身柄事件こそ、弁護人の隣に被告人が座ることを認めるべきである。通常、身柄事件では、被告人の両脇に刑務官が座って脇を固めていることから、身柄事件ではそれは難しいという意見もあるだろう。
 しかし、そもそも、身柄事件について、法廷に入った段階で、手錠を外した後は、刑務官も少し離れた位置で待機しておけば十分だろう(シアトルの裁判所でも、刑務官は離れた位置で待機していた)。
 その上で、被告人が弁護人の隣に座ることを正面から認めるべきである。

 憲法37条3項弁護人依頼権を保障している。これは、単に、弁護人を依頼することができることだけを保障した規定ではない。弁護人によるアドバイスや助力を効果的に受けることができる権利を保障する規定である。そうであるならば、とりわけ、被告人にとって、最も重要な場である法廷でこそ、弁護人からのアドバイスや助力を受けることが必要であり、そのためには、弁護人の隣に座ることが絶対に必要なのである。

 日本人は、既にアメリカの「法廷もの」の映画をよく見ており、アメリカの法廷シーンも見慣れている。それなのに、日本の刑事裁判を傍聴して、被告人が弁護人と引き離されて、ぽつんと座らされていることに違和感を覚えないのだろうか。 

 2009年から、市民が裁判員になって刑事裁判に参加する裁判員制度が開始することになっている。この裁判員制度についての世論調査では、世論から厳しい結果が出されている。

 内閣府が4月16日に発表した「裁判員制度に関する世論調査」によると、裁判員制度について、調査対象の71.5%が「知っている」と答えた一方、「参加したくない」と答えた人は70%で、「参加したい」の25.6%を大きく上回ったという(共同通信の4月16日の記事)。
 そして、このような世論調査の結果を踏まえて、最高裁判所の町田顕長官は、「非常にたくさんの国民が消極的。より参加しやすくなるような広報などを行いたい」と危機感を表明したと伝えられている(読売新聞の5月2日の記事)。

 この裁判員制度において、被告人がどこに座るのかということは、市民である裁判員がどのような印象を受けるかという点で極めて重要であると考えられる。大阪方式のような「お白州型」では、いかにも「罪人」として裁かれる者という印象しか与えないだろう。
 これに対して、被告人が弁護人の隣に座っていれば、そのような誤った印象を与えることはないだろう。

 その意味では、司法改革論議の中では、ほとんど話題になっていないが、被告人が座る位置というのは、刑事裁判の改革にとって、極めて重要な要素であると言える。

 この機会に、是非とも多くの市民の方が、実際の刑事裁判を傍聴して、違和感を感じないかどうかを自分の身で体験してもらいたい。

【Today's Back Music】
 柴田まゆみ/白いページの中にand more tracks(TECH-25032)
  1987年のヤマハポピュラーソングコンテスト(ポプコン)つま恋本選会入賞曲である「白いページの中に」と、その後、1992年に活動を再開した際のデモ・テープを音源として初CD化された作品。当時から、「白いページの中に」は大好きな曲であり、懐かしくて買ってしまった。どれも、透明感のあるボーカルを聴きことができる。

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Comments

はじめまして。

賛成です。はっきりとルールで定められていないきまりや制度に法の趣旨に反する内容があるとそれがダブルバインドとして働き被告人を困惑させますね。被告人からすると俺一人でがんばるべきなのか弁護士と懇意にしていいのか距離が大変に取りにくく、結局自分一人で頑張ってしまうことになる。

Posted by: bun | 2005.05.07 at 12:18 PM

bunさん
 賛同ありがとうございます。
 ご指摘のとおりだと思います。これから、多くの被告人たちが、「弁護人の横に座りたい」と声をあげるようになれば、現実も変わるように思います。何と言っても、被告人は「無罪の推定」で保護されており、裁判で断罪される「客体」ではないのですから。
 今後とも、ご意見ををお願いします。

Posted by: ビートニクス | 2005.05.07 at 06:17 PM

はじめまして。早速で恐縮ですが、
被害者についてはどうなのでしょう。
現在は傍聴席に座っているしかありませんが、例えば、検察官の隣に座るといったことは考えられないのでしょうか。

そのようなことが認められている国もあるように聞いたことがありますが。

Posted by: DH | 2006.03.09 at 02:02 AM

DHさん
 随分前にコメントをいただいていたのですが、多忙のためにお返事が遅くなりました。
 現在、犯罪被害者の中には、検察官の横に座ることを「在廷権」として主張されている方もおり、将来的には、それが実現される可能性もあると思います。
 ただ、その場合には、被害者が検察官側に立つことを明確にする結果となるという点で、それで良いのかどうかを考える必要があるように思います。

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Tracked on 2005.07.31 at 04:54 AM

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