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2005.06.03

警察庁によるDNAデータベース構築に問題はないか?

 警察庁は、6月1日、全国の警察本部が犯罪捜査のために容疑者から採取し、それぞれで保存しているDNA型情報について、既に整備されている犯罪現場の遺留資料のデータベースと合わせ、本年8月をめどに本格的な運用を開始することを決めたと新聞で報じられている。
 また、6月2日には、警察庁の漆間巌長官が、定例記者会見で、「将来的には指紋と同様に逮捕した容疑者から一律に採取できる仕組みを目指す」と述べたと伝えられている(MSN-Mainichiの記事)。

 これまでも、刑事裁判において、DNA鑑定の手法が既に使われており、いわゆる足利事件で行われたDNA鑑定は、弁護人側から激しく争われたが、最高裁判所は、2000年7月17日第二小法廷決定(刑集54巻6号550頁)で、次のように述べて、その証拠能力を認めている。

「本件で証拠の一つとして採用されたいわゆるMCT118DNA型鑑定は、その科学的原理が理論的正確性を有し、具体的な実施の方法も、その技術を習得した者により、科学的に信頼される方法で行われたと認められる。したがって、右鑑定の証拠価値については、その後の科学技術の発展により新たに解明された事項等も加味して慎重に検討されるべきであるが、なお、これを証拠として用いることが許されるとした原判断は相当である。」

 DNAデータベースについては、世界的には、イギリス、アメリカなどで運用されており、先進国でDNAデータベースを持たないのはイタリアと日本くらいだと言われているという(勝又義直「DNA型情報の刑事事件への利用と犯罪減少対策の応用の可能性」警察學論集58巻3号48頁)
 今回の警察庁の決定も、このような世界的な動きの中で、横並び意識から、DNAデータベースの構築を急いだのではないかと思われる。

 ところで、既に、我が国でも、指紋についてのデータベースがあり、800万件ものデータが保管されているという(Sankei Webの記事)。これ以外に、DNAデータベースを構築する必要が果たしてどれだけあるか、という疑問がある。

 特に、DNAは、それぞれの個人にとっては、もっともプライベートな部分の個人情報であるから、そんなに簡単に、国家が一元的にデータベースを構築することを認めて良いかどうかが問題である。個人情報保護法も、行政機関の保有する個人情報保護法が、つい先頃に全面的に施行されたばかりである。
 したがって、どういう場合に、警察が、DNA情報を取得することができるようになるかが極めて重要であるはずである。

 ところで、DNAの取得については、被疑者として逮捕された時点で、DNAサンプルを採取するイギリス型と、有罪判決を受け、合法的に収監された時点で、DNAサンプルを採取するアメリカ型がある(山本龍彦「米国におけるDNAデータベース法制と憲法問題」警察學論集58巻3号100頁参照)。もっとも、アメリカの一部の州で、イギリス型を採用している州もあるという(ルイジアナ州、カリフォルニア州、ヴァージニア州)。

 イギリス型とアメリカ型とを比較すると、個人情報の保護という観点からは、アメリカ型の方が優れていると考えられる。イギリス型の問題は、仮に逮捕が適法だとしても、その後の刑事裁判で、その者が無罪になるかもしれないにもかかわらず、既に採取されたDNA情報はデータベースに組み込まれるかもしれないという点にある。
 その結果、「無実の者」のDNA情報が、DNAデータベースの中に残り続け、今後起こるであろう犯罪について、そのように取得されたDNA情報が、今後の犯罪捜査に利用されるかもしれないということになるからである。

 特に、DNAの特性から、次のように指摘されている点は無視することはできないだろう(ジョン=グリーブ「DNA~捜査機会の拡大、証拠としての可能性、人権をめぐる議論」警察學論集58巻3号13頁)

「DNAは非常に微細なものであり、無意識のうちに移動することがあり得ます。したがって、公判において、被告人側が『DNAはたまたま移動して、犯行現場にあっただけだ。』と主張することがあり得ます。捜査官、弁護士を含めた刑事司法制度は、DNAの完全性に配慮しなければなりません。証拠がどのように管理されていたのか、採取されたサンプルのDNA型情報とのマッチングが適切に行われていたということが重要になります。」

 DNA鑑定が万能ではなく、誤った鑑定がなされる可能性があることを考えると、「無実の者」が逮捕された時点で採取されたDNA情報を、DNAデータベースに組み込みべきではないし、少なくとも、その者が無罪が確定した時点でデータベースから削除されなければならない。

 そのような面倒さを考慮し、個人情報の保護や、誤ったDNA鑑定によって犯人と間違われないためには、せめて、アメリカ型のように、刑事事件について有罪判決が確定し、合法的に収監される際にDNAを採取するようにしなければならないはずである。

 ところが、警察庁の漆間巌長官の会見からすれば、警察庁は、明らかに、イギリス型を目指している。すなわち、逮捕時に全ての被疑者からDNAサンプルを採取することを意図していることが明らかである。
 その理由は全く述べられていないが、もちろん、その方が手っ取り早く、数多くのDNAデータを集めることができるからだろう。データベースはそのデータ数が多ければ多いほど価値が増すから、そのように効率性という観点からは、そのように考えたいのは理解できないではないが、他方で国民の個人情報の保護や信頼という価値がある。
 DNAデータベースについても、そのような国民の側の利益を無視して、一方的に、警察の犯罪捜査の便宜のためだけで構築されることは認められるべきではない。

 例えば、フランスでは、DNAサンプルを被疑者から採取できる犯罪を重大犯罪に限定しており、そのため、現時点では2万2000件しかデータを有していないという。これに対して、イギリスでは全ての被疑者から採取しているために、現時点では約253万人分のデータを有しているという(MSN-Mainichiの記事)。
 したがって、軽微な犯罪も含めて、一律に被疑者からDNAサンプルを採取することは認められるべきではない。

 漆間巌長官は、法改正も視野に入れていると伝えられている。実は、刑事訴訟法218条2項は、次のように規定して、指紋・足型等については、身体検査令状は不要であると規定している。

 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、前項の令状によることを要しない。
   法改正というのは、この規定を改正して、DNAサンプルもここに含めるということを意味していると考えられる。しかし、形式的に、条文の文言を変えるだけという問題ではなく、採取される被疑者にとって、DNAサンプルまでを逮捕時に採取されることを認めて良いかどうかをきちんと議論しなければならない。

 今回の警察庁の決定は、単なる国家機関の一部門による判断に過ぎない。本来であれば、このような重大な問題は、国民の代表である国会できちんと議論して、法律としてその判断が示されるべき事柄であるはずである。
 刑事訴訟法218条2項の改正論議は、そのために意味がない訳ではないが、DNAデータベースの構築についても、単なる警察庁の内部規則で決めるのではなく、DNAデータベースの構築の根拠となる法律の制定が必要ではないだろうか。

 今回の警察庁の動きは、監視カメラなどの設置と併せて、ますます、国民に関する情報を一元的に管理して管理しようとする動きの一環であると思われる。警察庁は、犯罪捜査以外には使用しないと述べてはいるが、その言葉を果たしてどこまで信用して良いか分からない。
 先程述べたように、DNAが動きやすい性質を有していることからすると、私たち市民の移動を把握するために使用するということもありえない訳ではないと考えられる。

 したがって、今回のDNAデータベース構築の発表についても、警察による国民の監視という観点から、批判的に見ていく必要があると思われる。私たちが、自分の個人情報について、より敏感になることが求められているのではないか。

(2005.6.5)
 罪種による限定について一部加筆しました。
 なお、以前に書いた共謀罪等に関する刑法等一部改正案が衆議院法務委員会から、早ければ、6月14日にも審議入りしようとしている。この点につき、私のホームページを併せてお読みいただければ幸いである。

【Today's Back Music】
 Dominick Farinacci/SMILE(MYCJ-30330)
  若手トランペターであるドミニク・ファリナッチの新譜。レコード屋でかかっているのを聴いて買ってしまった。非常に渋い演奏で、何度聴いても飽きない。バックの演奏とよくマッチしている。特に、ピアノのDan Kaufmanの演奏が良かった。

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Comments

こんにちは、おおた葉一郎です。
本論の前の段階の話なのですが、そもそも、「DNA」または「指紋」というものは、個人のプライバシー情報として、守られているものなのでしょうか。おそらく、指紋は日常生活上あちこちにばらまいてしまうのですが、今のところDNAは簡単には特定できないのしょうけど。
よく、私立探偵事務所が父親から自分の子供の本当の親調査を依頼され、公園で遊んでいるこどもにガムを噛ませて、唾液を収集してDNA鑑定するなんて話も聞くのですが、そういうのは重大な個人情報の侵害というように思うのですね。(こどもにとっても、母親にとっても)。

Posted by: おおた葉一郎 | 2005.06.08 at 05:06 PM

おおた葉一郎さん
 コメントありがとうございました。多忙のためお返事が遅くなりました。
 確かにご指摘のとおりですが、例えば、ターゲットにしている人をずっと尾行して、その人が吐いた痰を収集するとか、その人が鼻をかんでゴミ箱に捨てたティッシュを採取するというような場合に、そこからDNAサンプルを取得することが許されるかは、なかなか微妙な問題です。
 過去の刑事事件(本文で紹介した足利事件)でも、ごみ箱に捨てたちり紙に付着した体液からDNAサンプルを取り出したことが捜査としては違法ではない判断されています。
 これらは、DNA情報の取得という点については何の同意もないと考えられますので、やはり、そこからDNA情報を取得することは違法であると考えるべきだと思いますが、まだまだ、一般人の意識がそこまでは到達していないのかもしれません。

Posted by: ビートニクス | 2005.06.12 at 05:38 PM

ありがとうございます。
DNAの問題は、「個人のプライバシー情報」なのかというのが一段目にあって、勝手に警察がデータベース化していいか?というのが二段目にあるのかなって思います。「指紋」は遺伝情報ではないので、単に個人対国家という構造なのでしょうが、DNAは親子の問題とか、いろいろ秘密性が高いのではと思います。
豊臣秀頼が秀吉と種違いというのはかなり歴史上、信用された説ですが、当時DNA鑑定があれば、秀次は家族と一緒に首を切られなかったのでしょうね。

Posted by: 葉一郎 | 2005.06.13 at 07:53 PM

横レスで恐縮ですがおおたさんのご指摘を私も重要だと思っていましてどうしようもなくバラまいてしまうものだからこそ捜査にとっては魅力的な資料であり同時にプライバシーのセルフコントロール権の危機でもあるのですね。どこで線が引かれるのか注目したいと思います。

Posted by: bun | 2005.06.18 at 07:05 PM

おおた葉一郎さん、bunさん
 コメントありがとうございました。
 確かに、DNAの問題を分析すると、葉一郎さんのご指摘のとおりかと思います。ただ、DNAも指紋と同様に、普通に生活をしていて、町の中に無意識に落としている(髪の毛など)という面もあり、その「取得」の規制は難しいのかもしれません。その意味では、無断でDNAを解析してはいけないという規制が働くということかもしれません。

Posted by: ビートニクス | 2005.06.20 at 08:06 AM

inakakouippeさん
 コメント3件につき、このコメントとしては不相当であり、個人名等が多数入っていることから削除させていただきました。

Posted by: ビートニクス | 2005.07.15 at 06:32 AM

'すべてを含むべきである'というDNAデータベース
ジョージ・ジョーンズ、政治部部長のそばで
最終更新日: ベーリング標準時午前2時52分 24/10/2006

オーディオ: DNAデータベースのフィリップ・ジョンストン

トニー・ブレアは、昨日、国家の DNAデータベースがすべての市民を含むように広げられるように求めました。

彼は、真剣な犯罪者を捕らえるのに、それが重大であったので、データベースの開発には限界が全くあるべきでないと言いました。
トニー・ブレアは、旅行の間、DNAの拡張使用には公共の支援があったとロンドンのForensic Science Serviceに主張しました。


保守党員は、こっそりでDNAデータベースを広げるのを試みるので彼を起訴して、潔白であったか、または充電しなかった人々の細部が希望に反して含まれるべきであるか否かに関係なく、議会が票決されるように求めました。

首相は、公衆が、DNAの拡張使用を支持して、何千未定の「窮状」を再開させるように技術的進歩を利用するためには国中の警官隊に促したと言いました。

ロンドンでのForensic Science Service本部の見学の間、それが「私たちトラック・ダウン殺人者、強姦者を助けていた」ので公衆がデータベースを支持したと言って、彼は野党政治家の関心を捨てました。

Criminal司法の条例2003以来国家のDNAデータベースはおよそ3分の1~360万個のプロフィールで広がっています。(それは、DNAがそれらが結局断罪されたかどうかにかかわらずどんな投獄可能オフェンスでも逮捕された皆からのサンプルであることを警察を取って、保ちました)。
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ブレアさんはデータベースを確立する計画を発表した1999年に自発的にDNAのサンプルを与えました。

何か制限が人々を含む数にあるべきであるか尋ねられて、ブレアさんは言いました: 「データベースの数はあなたが得ることができる最大数であるべきです。」

ブレアさんは、真剣なオフェンスを遂行したならそれらが「断罪されるべきである」のでサンプルを提供する公衆に関する「どんな問題も」があると信じていなかったと言いました。 データベースは事件の現場の最も小さい跡からさえそれらを特定して、捕らえることができたという刑事上の共同体への「強い信号」を送りました。

ダウニング街は、後で皆がDNAのサンプルを与えるのが必要に考えが全く現在のところ与えられていなかったと言いました、彼らはパスポートと結局ナショナルIDカードのために彼らの目と指紋のスキャンを与えなければならないでしょうが。 現在のところ、首相は、他の政府の大臣を含む人々が彼らのDNAを買って出るべきであるか否かに関係なく、それが「私事」であると信じていました。

ブレアさんはおよそ100の痛ましいケースを解決することへの成功を強調するために実験室を訪問しました、20年と同じくらい遠くにさかのぼられるレイプと殺人を含んでいて。 技術における進歩は、場面からの古いサンプルが再分析して、データベースの「窮状」レビューにおけるプロフィールに取り組ませることができるのを意味します。

これは新しい証拠ではなく、新しい法廷のテクニックによるケースの再開を可能にします。 数人の他の容疑者が捕らえられて、裁判を待っていて、プロジェクトは今までのところ、21の信念をもたらしました。 政府筋は、現在アクティブな刑事上の人口の大部分で彼らのDNAを記録すると言います。 警察は1998/99でDNAが1カ月合う3,500以上、図の二重を受けます。

条例2001が請求された皆からのDNAのサンプルを保有するために警察を可能にしたCriminal最高裁判所判事と警察。 以前、彼らは無罪であることが見つけられたか、またはそれらの告発を不起訴とさせただれからもサンプルと指紋を破壊しなければなりませんでした。

Criminal司法の条例2003はDNAのサンプルを取って、保つパワーを警察に与えました。

新しい強国の使用は論議を呼ぶと判明しました。 今月の初めに、デーリー・テレグラフは、隣人との論争の後に逮捕された祖母がDNAのサンプルを与えるのに必要であったと報告しました。 ケースは後で証拠不十分のために落とされましたが、彼女のDNAはデータベースに残るでしょう。

イギリスは、世界に最も大きいデータベースを持って、経験から学ぶのを切望しているヨーロッパ中で国から注意を得ています。

ダミアン・グリーン(保守党員の内務スポークスマン)は、含意を通して思わないで「ひづめに関する方針」を作るので、ブレアさんを起訴しました。

DNAデータベースが犯罪に対する戦いで重大なツールであるかもしれませんが、議会は、使用に関する諸条件を適切に定められて、承認しなければなりません。

「DNAのサンプルを取らせますが、どんな犯罪にも潔白ですが、データベースにまだ留まっている人々に対応するために、支給は全くありません。」と、グリーンさんは言いました。

Posted by: 日本でのブレア動きに警戒してください | 2006.10.30 at 07:38 PM

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警察庁によるDNAデータベースづくりが、進んでいる。すでに大きなニュースになっているし、ご存知の方も多いと思う。法律的な角度から(つまりDNA採取を警察に任せて良いのか、どういう条件下なら採取を認めるのか等々)論じたものは、弁護士・ビートにクスさんの論考・警察庁によるDNAデータベース構築に問題はないか?が非常に参考になる。 ところで、このDNA採取問題もそうだし、人権擁護法案や共謀罪新設問題等々もそうなのだが、最近のこの種の法案・政策は、「いま論議されている内容とは全く違った運用を可能にする... [Read More]

Tracked on 2005.06.13 at 01:38 PM

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 こんばんは。今日は、中山研一先生の『現代社会と治安法』(岩波新書、1970年)を読んで、私が考えたことを書きたいと思います。  序章では、まず、治安の意味には1、市民間の生活秩序維持としての治安 2、個人的法益(個人が法によって保護される利益)を超える全体的秩序としての治安 3、政治的秩序としての治安の3つがあることが示されます。そして、市民間の生活秩序としての治安と全体的秩序としての治安の2つの治... [Read More]

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