西村議員に対する組織犯罪処罰法適用の狙いは何か?
大阪地検特捜部は、2005年11月28日、衆議院議員の西村真悟氏(以下「西村議員」という)を弁護士法違反容疑で逮捕していたが、12月18日、法律事務所元職員から無資格の弁護士活動(非弁活動)で得られた報酬のうち約800万円を受け取っていたとして、西村氏らを、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という)違反容疑で再逮捕したと報道されている(読売新聞の記事)。
西村議員らに対して適用されたのは、組織的犯罪処罰法11条本文「情を知って、犯罪収益等を収受した者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」の規定である(犯罪収益等収受罪)。
報道によると、西村議員は、弁護士法違反容疑については逮捕前から、事実関係を認める方針であったことが伝えられていた。
先に逮捕され起訴された元職員も、弁護士法違反及び組織的犯罪処罰法違反の罪名で起訴されているようなので、西村議員らに対して組織犯罪処罰法が適用されて再逮捕されたこと自体は、ある程度予測されたことではある。
ただ、弁護士や国会議員に対して、組織的犯罪処罰法を適用して検挙したのは初めてであろうと思われるという点が気になるところである(報道では、「国会議員に適用されたのは初めて」とされるが、むしろ、弁護士に適用された点が重要である)。特に、弁護士に対して、組織的犯罪処罰法の犯罪収益等収受罪を適用することには、次のような問題がある。
アメリカでは、麻薬密売人などの刑事弁護を行なおうとする弁護士は、その報酬を受け取るときにそれが麻薬取引などによって得た違法なものであることを知っていた場合には、訴追される危険があるため事件を引き受けることをためらい、その結果、私選で弁護人を選任する権利が侵害されていると指摘されている。
西村議員の場合に問題となっている「犯罪収益」は、非弁活動により得た利益であるが、それは組織的犯罪処罰法が定める別表19に該当するものである。
現在、「犯罪収益」の前提となる犯罪(これを「前提犯罪」という)については、組織的犯罪処罰法2条2項で定義されており、ある程度明確ではある。
ただ、「犯罪収益」の前提犯罪については、今後、これを長期4年以上の犯罪の全てに拡張する法案が国会で継続審議中である(あの共謀罪の新設等を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」がそれである)。
この改正が実現してしまうと、「犯罪収益」は極めて広い前提犯罪から生じることになる。しかも、「犯罪収益」とそうではない財産が合わさった「混和財産」も含めて「犯罪収益等」とされて、隠匿や収受の対象とされている(組織的犯罪処罰法2条4項)。
この「混和財産」という概念は分かりにくいが、「朱に交われば赤くなる」ということで、コップに一滴でも赤いインクを落とすと、その全てが赤で汚染されるように、全てが「犯罪収益等」になると考えられているのである。
そのため、弁護士が、前提犯罪を犯したとされる被疑者から弁護士報酬を受け取ると、それがひょっとしたら「犯罪収益等」かもしれないと認識(いわゆる未必の故意)してさえいれば、その弁護士には犯罪収益等収受罪が成立してしまうことになりかねないのである。
そのため、このような被疑者から、直接、弁護士報酬を受け取る私選弁護人となることは、捜査機関から、犯罪収益等収受罪を疑われるおそれがあるつきまとうことから、私選弁護を受任する弁護士がほとんどいなくなるだろうと考えられるのである。
アメリカにおいても、同じような問題が起こっており、アメリカ連邦最高裁判所は、1989年6月22日に、米国におけるこのような規制立法について、5対4で合憲であると判断しているが、少数意見の4名は、マネーロンダリング規制が弁護人依頼権と適正手続の保障に反すると指摘しているという(盗聴法ニュース第9号)。
今回、西村議員に対して、組織的犯罪処罰法による犯罪収益等収受罪が適用されているが、これは、刑事弁護人が依頼者から報酬を受け取ったことが問題とされる典型的な事例でないことは確かである。
しかしながら、一度、弁護士に対して、組織的犯罪処罰法による犯罪収益等収受罪が適用されたという前例的な価値は極めて大きい。
つまり、弁護士であっても、決して、犯罪収益等収受罪適用の例外にはしないという大阪地検特捜部の宣言に他ならないからである。
この種の危険な法律は、最初は誰も文句が言えないような明白な事案に適用されるのが常である。そうやって、法律の適用の実績を作った上で、やがて、徐々にその適用が拡大されていくのである。そのため、その時になって異論を唱えても、もう手遅れになるのである。
今回も、そのようなやり方で適用の実績作りをするために、西村議員に適用されているのではないかと思われる。その意味では、弁護士にとって、今回の再逮捕は、決して他人事ではないと受け止めなければならないと思う。
なお、犯罪収益等収受罪とは異なるが、現在、弁護士に対して、マネー・ロンダリングやテロ資金の疑いがある取引を警察庁に報告させる制度を作ることも計画されている。そちらはもっと大問題である。関心がある方は、とりあえず、私のホームページの「マネロン・テロ資金規制制度の新たな局面を迎えて」をお読みいただければ幸いである。
ところで、今回の西村議員の逮捕について、「踊る新聞屋-。」さんは、次のように述べているが、決して大きく外していないと思われる。
「(前略)まぁ、西村議員のような人は人柄自体は悪くなさそうだけど国会議員としては如何なもんかと感じている俺としても釈然としないのは確かで、迂闊な俺はとりあえず、謀略説に一票。その狙いはズバリ、弁護士潰しだ。」
国家権力から見て都合の悪い人たち、つまり、「右も、左も」弾圧して潰していくということだと思われる。西村議員は、どちらかという右翼的な思想を持ち、その中でも「跳ね上がり」的なイメージで受け止められていたと思うが、それも国家権力から見ると都合が悪い人たちとして排除しようとしているのだと思われる。
このように、今の日本は、自由に物が言えないという雰囲気が醸成されていっていると感じる。今回の西村議員の再逮捕にも、決して無視することができない深い問題があることを是非とも知っていただきたい。
【追記】
記事執筆後、野田敬生さんの「ESPIO」に「西村眞悟議員に対する組織的犯罪処罰法の適用は共謀罪成立後の社会を先取り」との記事を見つけたので紹介しておきたい。
なお、当局の見解によると、犯罪収益等隠匿罪を共謀し、かつ、犯罪収益等の収受をした場合には、犯罪収益等隠匿罪の共謀共同正犯のみが成立するとされている(三浦守ほか『組織的犯罪対策関連三法の解説』〔法曹会、2001年〕130頁)。
そうすると、犯罪収益等隠匿罪は5年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金であるから、共謀罪の成立要件である長期4年以上の要件を満たし、共謀だけでも処罰される可能性があることになる。
【Today's Back Music】
saya/simple poem(JZCD-1001)
日本人ピアニストsayaさんの1997年に録音されたデビュー作が発売。デビュー作でありながら、既に透明感があり、完成度の高いアルバムである。
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