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2006.02.19

共謀罪は修正すれば許容できるか?

 2月14日、与党側が民主党に対して、共謀罪についての修正案を初めて提示したと報道されている(東京新聞の記事)。これによって、昨年秋の特別国会に3度目の上程をされ、継続審議とされていた共謀罪の新設を含む組織犯罪処罰法等の改正案(以下「共謀罪法案」という)の成立に向けた今通常国会での動きが始まった。

 報道などによると、与党の修正案は、(1)適用対象の限定と(2)何らかの準備行為があったことを共謀罪の構成要件に加えることの2点のようである(もっとも、与党関係者によると、この修正案が与党としての最終的な提案ではないようである)。

 情報流通促進計画さんbyヤメ記者弁護士さんのブログには与党案の原文が掲載されているが、それによると、適用対象の限定については、「団体の活動」の後に括弧書きで、「その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体である場合に限る。」との文言を挿入する案となっている。
 また、準備行為については、「その共謀をした者のいずれかにより共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合において」との文言を挿入する案となっている。

 前者の共同の目的を限定する修正案については、一見すると、多少の限定をしたように見えるが、実は全く限定にならないと考えられる。この点については、特別国会における審議から明らかとなっている。

 特別国会での審議においては、富田法務副大臣(当時)が、民主党の枝野幸男議員の質問に対して、次のように答弁している(以下、2005年10月28日の衆議院法務委員会の議事録から抜粋)。

「『団体の活動として、』という要件を満たすためには、犯罪行為を行うことを共同の目的を有する団体として意思決定することが必要であり、そのためには、当該犯罪行為を行うことがその団体が有している共同の目的に沿うものであることが必要であるというふうに考えられます。  言いかえますと、団体が有している共同の目的が犯罪行為を行うことと相入れないような正当な目的で活動している団体については、仮にたまたまその団体の幹部が相談して組織的に犯罪行為を行うことを決定したとしても、共同の目的を有する団体として意思決定したとは言えないため、『団体の活動として、』という要件を満たさず、共謀罪は成立しないというふうに考えられます。」

 この回答の内容を明文化しようとしたのが今回の与党の修正案の内容であるように思われる。
 しかしながら、与党の修正案を見ても、「その共同の目的が・・・罪を実行することにある団体」と書かれているだけであるから、上記のように、団体の幹部が組織的に犯罪を行う決定した場合に、「共同の目的を有する団体として意思決定したとは言えない」という解釈だけが当然に成立するわけではない。

 法務省刑事局は、特別国会において、立法担当者が明らかにしていた見解を否定した上で、上記のように限定する見解を初めて明らかにした。
 すなわち、立法担当者が執筆した『組織的犯罪対策関連三法の解説』(法曹会)68頁において、団体の定義(組織犯罪処罰法2条)について、

「その目的自体が必ずしも違法・不当なものであることを要しないのであり、例えば、会社が対外的な営利活動により利益を得ることなども、『共同の目的』に当たり得る。」
と記載されていたが、大林刑事局長は、次のように述べて、これを否定する解釈を示したのである。
「御指摘の解説は、立案当時に議論のあった点などについて、担当者個人の見解または説明を記述したものであり、もとより法務省としての確定的な見解を示したものではございません。私が今申し上げたとおり、これまで御答弁しているとおりの解釈が法務省としての解釈でございます。」 「私が申し上げたいのは、組織的犯罪処罰法ができた当初においてそれぞれの解釈を示さなきゃならない。解釈というのは、やはりそれは、弁解するわけではございませんけれども、その当時の状況、社会状況の問題もございます。それから、いろいろな事項についてこれは一つの議論の対象となったというところでこのような記載がなされている。私も本人に確認をしておりますけれども、そしてまた、今回の答弁書作成においても審議官がタッチしております。審議官自体がいささか表現が誤解を招く表現だったと、彼自身が認めているところでございます。」

 しかしながら、組織的犯罪処罰法が立法された当初の立法担当者が示した解釈を、その後の刑事局長が否定したところで、それが裁判所によってどのように採用されるかについては何の保証もない。
 裁判所としては、立法当初の解釈の方を採用する可能性があるし、むしろ、その方が広くて緩い解釈なのであるから、喜んでその解釈が採用される可能性の方が高いのである。

 この点について考えるに当たっては、最近のライブドア事件を想起されると良い。本年2月16日、東京地方検察庁は、堀江被告ら幹部等を東京地裁に、証券取引法違反で起訴している(ライブドアによるプレス・リリース)。
 この事件について、仮に共謀罪があったと仮定した時に(もっとも、今回適用された罪名では長期3年以下なので、現在提案されている共謀罪の適用はない<長期4年以上の犯罪についてしか共謀罪の適用はない>)、ライブドア事件に「共同の目的」があるといえるかが問題となる。

 これについては、組織犯罪処罰法の立法当初に立法担当者が示した解釈であれば、ライブドア幹部だけが共謀して行っただけでも、「共同の目的」はあると解釈される可能性があるのに対して、特別国会で示された法務省刑事局の新しい解釈ではその適用の余地はないことになる。この差は極めて大きいと言わなければならない。

 今回、与党が民主党に示した修正案のうち、「共同の目的」を限定しようとした点については、このような懸念が全く払拭されていないという点で大きな問題があると言わなければならない。

 また、準備行為の点については、従来から、顕示行為(overt act)というアメリカの一部の州で採用されている要件を付加しようとするものであるが、これもあまり限定には役立たないと考えられる。

 この点については、大林刑事局長も、特別国会の審議の中で、その要件を設けることと設けない場合とでは、実務上あまり違いはないことを、次のように述べて認めている(2005年10月14日の衆議院法務委員会における議事録より抜粋)。

「これらの共謀が行われたことや組織性等の要件に該当することを立証するためには、実務上はオーバートアクトの存在が非常に重要となり、オーバートアクトが存在せず、あるいはその存在が立証できない事案においては、これらの立証が困難になる場合も多いと考えられます。  したがって、共謀罪において、オーバートアクトを要件としない場合と、した場合の実務上の差異は、結果としてはそれほど大きくない場合もあり得る、このように考えております。」

 大林刑事局長は、共謀罪立法に対して、顕示行為を要件にする必要はないという立場から、その付加に否定的な発言をしていると考えられるが、与党の修正案の準備行為に関する部分についてはあまり限定の実益がないことが図らずも明らかになっていると言えるだろう。

 しかも、「共謀に係る犯罪の実行に資する行為」という「資する」という部分はかなり広範であり、ほとんどの行為が当たると考えられることからしても、共謀罪の成立を限定することにはならないと考えられる。

 このように、与党の修正案は、共謀罪の本質的危険性をほとんど限定するものではないことが明らかであり、このような修正をすれば共謀罪法案を成立させても良いことにはならないことは言うまでもない。

 ただ、与党は、共謀罪法案の今通常国会での成立に全力を尽くす姿勢を示している。民主党が修正協議に応じない場合には、予算審議明けの本年3月中にも、衆議院法務委員会の冒頭で、与党だけで修正案を提出して質疑応答の後、強行採決も強く予想されるところである。

 共謀罪法案の成立を急ぐような国内情勢も必要性も全く認められない。それにもかかわらず、共謀罪法案の成立を急ごうとするのは、やはり、共謀罪を強力な国内の治安対策として利用する意図があると疑われても仕方があるまい。

 今年も「政治の季節」がやってきた。本年3月以降、衆議院法務委員会では、与野党の激しい論戦が予想される。今回が本当の意味での「最終決戦」になることが予想される。その意味で、今後の国会情勢を見据えながら、反対の声を大きくしていく運動が求められている。

【Today's Back Music】
 五十嵐一生/FREE DROPS(OMCZ-1018)
 トランペッター五十嵐一生の新譜。一度、ライブで聴いたことがあるが、深みのあるトランペットの音色が美しい。最近ではこのアルバムを何度も聴いている。

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