最近の弁護士批判の傾向に問題はないか?
最近、刑事事件に関して、裁判所が弁護人である弁護士を批判することが続いている。マスコミも同じような論調で、弁護士批判を展開している。このような傾向は果たして妥当なのかどうかについて考えてみたい。
まずは、山口県光市で起きた母子殺人事件について、上告審である最高裁判所第三小法廷において、3月14日に弁論が開かれる予定であったが、弁護人2名が不出頭だったために、弁論が開かれなかったというものである。
浜田邦夫裁判長は「正当な理由に基づかない不出頭で、極めて遺憾」とコメントしたと伝えられており、その後、同法廷は、弁護人2名に、昨年11月に施行された改正刑事訴訟法が定める「出廷在廷命令」を出している。
この件については、被害者の遺族が「これほどの屈辱を受けたのは初めてだ」とコメントしたこともあり、その後、マスコミで弁護人の実名を挙げて激しい批判がされている。
次は、オウム真理教の教祖であった被告人についての刑事事件で、東京高等裁判所(須田賢裁判長)は、3月27日、第1審の東京地裁の死刑判決を不服とした弁護側の控訴を棄却した。決定は、その理由として、「裁判所が決めた期限までに弁護側が控訴趣意書を出さず、かつ被告が訴訟能力を持つことに疑いはない」と述べている。これについても、マスコミは、弁護団の弁護方針を批判している。
例えば、3月29日付読売新聞の社説は、次のように述べて弁護団を批判している。
弁護団は、控訴趣意書を期限内に提出したうえで、控訴審で松本被告の訴訟能力について争うべきだった。今回の弁護方針により、松本被告から実質審理の機会を奪う恐れが現実に生じている。高裁が決定で「被告が裁判を受ける権利を擁護する弁護士の使命からみても極めて問題だ」としたのは当然だろう。国民が刑事裁判に参加する「裁判員制度」が3年後に始まる。今回のように裁判の基本ルールが守られないようでは到底、新制度は立ちゆかない。
このように、最近では、裁判所が弁護人を批判し、それを受けてマスコミが弁護人を批判するという傾向が続いていると言える。
マスコミが、「悪い奴を弁護する弁護士も悪い」という論調で批判することは以前からあったが、最近は、裁判所が弁護人を批判し、マスコミがそれに追随するという点で、新しい傾向と言うことができるだろう。
最近の裁判所による弁護人批判の論調は、要するに、「裁判の引き延ばしは一切認めない」という強い姿勢に基づいていると思われ、これは裁判所全体としての明確な意思表示であると受け止める必要がある。
そして、その根拠となっているのが、「裁判の迅速化に関する法律」(迅速化法という)であると思われる。この法律の目的は、第1条において、次のように規定されている。
第1条 この法律は、司法を通じて権利利益が適切に実現されることその他の求められる役割を司法が十全に果たすために公正かつ適正で充実した手続の下で裁判が迅速に行われることが不可欠であること、内外の社会経済情勢等の変化に伴い、裁判がより迅速に行われることについての国民の要請にこたえることが緊要となっていること等にかんがみ、裁判の迅速化に関し、その趣旨、国の責務その他の基本となる事項を定めることにより、第一審の訴訟手続をはじめとする裁判所における手続全体の一層の迅速化を図り、もって国民の期待にこたえる司法制度の実現に資することを目的とする。
そして、第2条1項において、できるだけ迅速に裁判を行うべきことが定められている。
第2条1項 裁判の迅速化は、第一審の訴訟手続については二年以内のできるだけ短い期間内にこれを終局させ、その他の裁判所における手続についてもそれぞれの手続に応じてできるだけ短い期間内にこれを終局させることを目標として、充実した手続を実施すること並びにこれを支える制度及び体制の整備を図ることにより行われるものとする。
そして、第6条と第7条において、裁判所と当事者に対して、それぞれ、裁判の迅速化についての責務を負わせる規定を設けている。
(裁判所の責務) 第6条 受訴裁判所その他の裁判所における手続を実施する者は、充実した手続を実施することにより、可能な限り裁判の迅速化に係る第二条第一項の目標を実現するよう努めるものとする。(当事者等の責務) 第7条 当事者、代理人、弁護人その他の裁判所における手続において手続上の行為を行う者(次項において「当事者等」という。)は、可能な限り裁判の迅速化に係る第二条第一項の目標が実現できるよう、手続上の権利は、誠実にこれを行使しなければならない。
2 前項の規定は、当事者等の正当な権利の行使を妨げるものと解してはならない。
ここでは、被告人や弁護人にも迅速化を実現するために、その権限を誠実に行使することが義務付けられている。第7条2項では、当事者等の「正当な権利」を妨げてはならないという規定もあるが、今回の一連の裁判所の態度を見ると、弁護人がその権限を誠実に行使すべき義務だけが強調されているように思われる。
この法律を審議した衆参の法務委員会においても、その点を懸念して、次のような附帯決議をしていた。
【衆議院法務委員会】 一 裁判所における迅速化については、当事者の正当な権利利益が害されないよう、当事者の人権に十分配慮し、当事者の防御権を損なうことのないよう、十分な配慮をすべきこと。 (以下、略)【参議院法務委員会】
一 裁判所における手続の迅速化については、その手続において当事者の正当な権利が保障され、また、当事者の納得の得られる適正・充実した審理が行われることが前提であり、二年以内の終局目標のみにとらわた拙速な審理とならないよう、十分留意すること。
(以下、略)
特に、参議院法務委員会の附帯決議は、この法律の制定時から、裁判所が早期の決着を急いで拙速になるという懸念を見事に言い表している。
ところで、昨年11月1日から施行されている改正刑事訴訟法では、この迅速化を実現するために公判前整理手続や期日間整理手続を導入するとともに(ライブドアの堀江被告について、東京地裁は公判前整理手続を実施する決定をしたと報道されている)、弁護士や検察官などの当事者が迅速化に反して「引き延ばし」を図ることを許さないための規定が新設されている。山口県光市の殺人事件の弁護人に出された「出廷在廷命令」もその一つである。刑事訴訟法278条の2は次のように規定して、過料や費用賠償の制裁をもって、出廷・在廷を強制し、違反した場合には弁護士会に処置請求をすることになっている。
第278条の2 裁判所は、必要と認めるときは、検察官又は弁護人に対し、公判準備又は公判期日に出頭し、かつ、これらの手続が行われている間在席し又は在廷することを命ずることができる。2 (略)
3 前二項の規定による命令を受けた検察官又は弁護人が正当な理由がなくこれに従わないときは、決定で、十万円以下の過料に処し、かつ、その命令に従わないために生じた費用の賠償を命ずることができる。
4 (略)
5 裁判所は、第三項の決定をしたときは、検察官については当該検察官を指揮監督する権限を有する者に、弁護士である弁護人については当該弁護士の所属する弁護士会又は日本弁護士連合会に通知し、適当な処置をとるべきことを請求しなければならない。
6 (略)
最近では、弁護人による「ルール違反」だという批判もされている。確かに、迅速化法も改正刑事訴訟法も、既に国会で成立した「ルール」であること自体を否定することはできない。
しかしながら、これらの法律によって、裁判所の権限は著しく強大となっており、「当事者主義」からかけ離れようとしている。裁判所は、一方的に、弁論期日や控訴趣意書提出期限を定めて通知するのであり、弁護人としては、それに従うしかない。
山口県光市の事件でも、新たに弁護人となった弁護士は、事前に期日変更申請を提出したが最高裁によってそれが却下されているが(その理由等については、宮崎学氏のmiyazakimanabu.comの「弁護士安田好弘を弁護する」に詳しい)、この時点で裁判所と弁護人との間で協議を行い、弁論期日の調整等はできなかったのであろうか。
また、オウム真理教の教祖だった被告人の事件でも、訴訟能力に関する裁判所と弁護人との間の見解の相違から、弁護人が用意していた控訴趣意書の提出をしなかったようであり、これに対して裁判所が弁護人を批判するコメントを発表したことに弁護人が反発して、その後も控訴趣意書を提出しなかったという経緯があるようであるが、この点についても、裁判所と弁護人で協議して、訴訟能力の問題と控訴趣意書の提出の問題が別であることを確認して、弁護人に控訴趣意書を提出してもらうようにすることはできなかったのであろうか。
いずれの事件についても、裁判所が弁護人と敵対して頑なな態度をとったことにも問題があったのではないかと考えられる(ここで個々の事件についての弁護人の活動の当否について論じるつもりはない)。
弁護人は、あくまでも被告人を擁護するために、あらゆる権限を行使して被告人を弁護する。それは、反対当事者である検察官から見れば不満である場合があるかもしれないが、裁判所は、被告人の権利利益をも考慮し、公平な立場から審理を進める立場にある。
元来、裁判を早く進めて、有罪なり極刑なりという結論を急ぐのは検察官の立場であり役割であった。ところが、迅速化法によって、裁判所も裁判を早く進めなければならない責務を負うことになり、裁判官が検察官と同じマインドを持つようになってしまった。
その結果、弁護人は、あくまでも被告人を擁護するために、「拙速」裁判に反対し、慎重で充実した審理を求めることになり、検察官だけでなく、裁判官とも対立するようになってしまったのである。その結果、刑事裁判において、弁護人だけが孤立し、検察官と裁判官から批判を浴びる立場となってしまったのである。そして、マスコミまでもが、この立場を応援して、弁護人の批判を始めているのである。
このような事態は極めて異常であると言わなければならない。このような傾向は、何よりも弁護人の活動に萎縮をもたらすことになる。また、マスコミから批判されることを恐れて、今後は、大きな事件の刑事弁護の引き受け手がいなくなることも予想される。
すなわち、弁護士は、裁判所から批判され、マスコミから批判され、最後は弁護士会からも処分されるかもしれないと恐れながら弁護しなければならなくなってしまうのである。
その結果、刑事事件を起こした被告人の権利擁護が、必然的に弱体化することがもたらされる恐れがある。
最近では、「治安の回復」のためと称して、微罪であってもどんどん立件されるし、ビラ配りのような政治的な表現行為ですら立件される時代である。そういう時代に、被告人の弁護活動が弱体化することは恐ろしいことであると言わなければならない。
この傾向が進めば、真面目に刑事弁護をやろうという弁護士が減り、裁判所に従順で、徹底的に争わない弁護士だけが刑事弁護を担うようになってしまうかもしれない。それは「翼賛弁護士」の登場である。そうなれば、弁護士も「公益」のために、被告人を追及する立場の一端を担うようになり、被告人のためではなく、治安維持のために活動することになってしまうだろう。しかし、それでは、もはや真の意味の弁護人と呼べるものではない。
現在の裁判所とマスコミによる弁護士批判が続けば、最悪の場合、そのような事態が絶対に来ないとは言えない。そうならないために、最近の傾向について警鐘を鳴らしておきたい。
【Today's Back Music】
Eric Darius/Just Getting Started
SAXプレーヤーによる2枚目のアルバム。非常にクールでオシャレなサウンドで一気に聴かせてくれる。最近聴いたアルバムの中では非常に気に入っています。
「刑事事件」カテゴリの記事
- 連発される死刑判決と揺れ動いている死刑基準について考える(2009.03.30)
- 東京江東区OL殺害事件から刑事事件の公判審理のあり方を考える(2009.02.28)
- 遂に始まった被害者参加の刑事裁判(2009.01.29)
- 知的障害者の刑事事件について考える(2008.12.23)
- 厚労省元事務次官宅への襲撃事件について考える(2008.11.26)

Comments
>このような事態は極めて異常であると言わなければならない。このような傾向は、何よりも弁護人の活動に萎縮をもたらすことになる。
ここが一番の問題で、二つの問題になった例は対応として極めて下手だったということはいくら指摘しても良いと考えます。
「やむ得ない」という意見もネット上では多く見ますが「じゃその先はどうなるのだ?」で止まってしまいます。
こんな事態を招いたのは誰だ?となると、それぞれの弁護士(複数)としか言いようがないと思うのです。
>この傾向が進めば、真面目に刑事弁護をやろうという弁護士が減り、裁判所に従順で、徹底的に争わない弁護士だけが刑事弁護を担うようになってしまうかもしれない。
これは可能性としてあり得ないと言えない程度だと思いますが、正々堂々かつ徹底的に戦うのが法曹の本来の仕事であることを考えると、裏技を駆使して戦うのがいずれは規制されのは当然のことで、規制されるかもしれない手段を使うことは、どんな事(事業やネットワーク活動も)人並み以上に高いリスクがあるというだけのことだと思います。
酔うぞ拝
Posted by: 酔うぞ | 2006.03.30 at 09:08 AM
ここ最近疑問に感じていたことを、明快に述べていただき、すっきりした気分になりました。
今の、裁判所主導による、闇雲な「刑事裁判の迅速化」の傾向は、異常であると私も思います。しかし、「犯人を速く吊るせ」という国民感情と、それを煽るマスコミが、この傾向に拍車をかけています。
この国は「いつか来た道」に向けて急降下しているようです。どこかでこの傾向を逆転させなければならない、と感じます。
Posted by: J憲法 | 2006.03.30 at 09:57 AM
関連の記事にてTBしたつもりでしたがうまくできませんでした。
こちらのブログにリンクを貼らせていただきました。
http://blog.goo.ne.jp/rika0624/e/d4a32ea5d9fe6af1c7a403247725d093
事後報告で失礼しました。
Posted by: rika | 2006.03.30 at 10:29 AM
ご無沙汰いたしております。
先生がお感じになっておられる危惧は、私にもわかります。
わかるからこそ、光市母子殺人事件上告審やオウム松本裁判控訴審の弁護人の皆さまには、「揚げ足」を取られ、さらなる規制の口実となりうるような弁護活動には慎重になっていただきたかったというのが私の率直な感想です。
Posted by: an_accused | 2006.03.30 at 12:50 PM
なんか、たいへんな世の中になってきましたね。
日本はいったいどうなるんだろうと不安になってきます。
弁護士も法廷でシコシコと仕事をこなしていればよいという状況ではなくなっているということだと思います。もっと、世論対策に取り組むべきでしょう。
その意味では安田弁護士は決して優れた弁護士とはいえないように思います。
今回の件でいえば、裁判員制度の練習を欠席理由に混ぜたのは完全に失敗でしょう。
ネットでの書き込みを見ても、他の欠席理由を無視してその点だけを挙げて批判されています。一般には受け入れ難い理由だということでしょう。
Posted by: 流れ者 | 2006.04.02 at 03:20 PM
口をふさいだ手が滑り、逆手で首を殺したから殺意がなかったとか小学生が聞いても「バカ?」と言われかねない事を平気で主張するような弁護士が批判されるのは至極当然ですよ。今回、裁判所ごっこをやっているのは安田弁護士たちです。神聖であるべきの裁判所をおもちゃのごとく扱い、自分の私情も交えて、自称「弁護活動」をしているようでは、批判されるのは当たり前です。
今回の最高裁での弁論を聞く限り、この弁護士たちが如何に被害者だけでなく、日本を駄目にしているかが分かりました。
Posted by: ケンケン | 2006.04.19 at 12:51 PM
これで仕事になるのなら弁護士は楽な商売だと思う。弁護士会にも自浄能力が感じられない。
Posted by: べんべん連 | 2006.04.19 at 02:18 PM
ながながと書いているようだが、常識外れの行動を取った弁護士サマがヒンシュクを買ってるだけだろう。
自分たちの首を絞めたくなかったら、自浄努力をせよ。
Posted by: せんべいキライ | 2006.05.07 at 11:12 AM
「もし犯人が死刑にならずに刑務所から出てくれば、私が自分の手で殺す」
本村さんは実行すればいいのだ!
その後は安田に弁護を頼めばいい。
Posted by: 安田がそんなに立派なら | 2007.06.29 at 02:51 PM