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2006.09.07

被害者の刑事訴訟手続への参加は許容できるか

 2006年9月6日、杉浦正健法務大臣は、犯罪被害者が刑事裁判で加害者の被告に質問することなど、被害者が裁判に直接関与する制度の創設について法制審議会に諮問した。法制審では、被害者が傍聴席ではなく、検察官の隣に座る「在廷権」や、被害者による被告への直接質問、証人尋問の是非について検討し、法務省は法制審の答申を受けて、来年の通常国会に刑事訴訟法などの改正案を提出する方針であると伝えられている(日経新聞の記事)。

 特に、問題となるのは、以下の3点である。

 まず、犯罪被害者が裁判所に申し出たら、終始法廷に在廷できる(検察官の横に座ることが想定されている)という在廷権である。

 次に、現在、犯罪被害者には意見陳述する機会が与えられているが、その意見陳述のために必要な事項について被告人に直接発問する機会を与える発問権である。

 3番目に、犯罪被害者が、刑事訴訟において、起訴状に記載された訴因において特定された事実を原因とする不法行為の損害賠償を求め、刑事判決が出た後、同じ裁判官が、賠償額についての審理を行って、損害賠償に関する民事判決を言い渡す附帯私訴制度(被害回復命令申立制度)である。

 これらは、いずれも、2004に成立した犯罪被害者等基本法に基づいている(同法12条、18条)。

 今回の諮問では、本来、刑事訴訟の当事者でない犯罪被害者が、刑事法廷に在廷できたり、被告人に対する発問という訴訟行為を行うことを認めようとしているが、その法的根拠は極めて曖昧であるとともに、刑事訴訟の構造から見て疑問である。

 最大の問題は、まだ刑事訴訟において犯罪被害者であるかどうかが確認されていない段階で、申し出があった者を犯罪被害者として取り扱うことが、「無罪推定の原則」に反するのではないかという点である。
 特に、2009年から始まる裁判員制度の下で、市民による裁判員に対して、犯罪被害があったという予断・偏見を強く与えるおそれがある。
 この点は、今後法制審議会で議論されることになる附帯私訴制度(被害回復命令申立制度)について同様である。

 次に、犯罪被害者が刑事訴訟手続に参加することによって、刑事訴訟のあり方に大きな変容がもたらされるのではないかが問題となる。

 特に、附帯私訴制度(被害回復命令申立制度)は、犯罪被害者に対して、民事訴訟の原告(申立人)という地位を与えることによって、刑事訴訟に民事の争いを持ち込むことを認めることになる。

 その結果、刑事訴訟は、刑事裁判官が冷静かつ公平に犯罪事実の有無と程度を判断する場から、犯罪被害者と被告人との「闘いの場」と大きく変容することを認めることになる。

 最近では、被告人と犯罪被害者との関係を対立構造として捉える見方が広がっているが、この傾向にますます拍車がかかることになるだろう。特に、マスコミは、これまで以上に、被告人と犯罪被害者との対立構造を面白おかしく取り上げ、法廷での被告人の一挙手一投足をあげつらって、被告人を非難することになることが強く予想される。

 その結果、被告人は、法廷に常にいる在廷している犯罪被害者からの威圧を受けて、その防御活動が萎縮させられ、言いたいことが言えなくなる可能性が高くなる。

 次に、今回提案されている附帯私訴制度(被害回復命令申立制度)は、これまで想定されていた制度とは異なり、刑事判決が言い渡された後に、損害の有無・損害額について犯罪被害者(申立人)に立証させ、刑事判決をした刑事裁判官が民事の決定をすることが予想されている。

 被告人が経済的に困窮しており、国選弁護人が就いていた場合を想定すると、刑事判決が出た後は、国選弁護人の仕事は終わってしまうから、刑事判決が出た後の附帯私訴の審理については、代理人がいない状態で自ら対応しないといけないことになる。

 被告人が有罪判決に対して、冤罪を主張して控訴して無罪を争っている場合でも、第1審での有罪判決を前提に損害賠償命令が出され、仮執行もされることになってしまう。

 特に、有罪判決が出されて拘置所に収容されている場合には、拘置所は民事訴訟への出廷をほとんど認めていないので、被告人は損害に関する審理にほとんど出頭もできないから、被告人の裁判を受ける権利が侵害されるおそれがある。

 このように、犯罪被害者の刑事訴訟手続への参加は、現在の刑事訴訟のあり方を根本的に変容してしまうおそれがある。

 現在、我が国の刑事訴訟手続は、被告人の権利保障が極めて不十分であり、99.9%の有罪率(起訴された事件のうちの有罪判決が出る割合)であるという現状をそのままにしながら、犯罪被害者を刑事訴訟手続に参加させることは、被告人の権利保障をさらに弱める方向に働くことが必至であるから、このような制度の導入には反対せざるを得ない。

【Today's Back Music】
 秋田慎治/moment in life(PCCY-30089)
  秋田慎治(p)の初めてリーダー作品。いろんなライブで聴いていたが、非常に完成度が高いアルバム。若さによるパワーを強く感じる。

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Comments

 お久しぶりです。付帯私訴と裁判員制度の関係は、憲法問題もあり注目して見ております。

 そもそも付帯私訴の導入意義は、犯罪被害者の「あすの会」などが提唱していたように、(凶悪犯罪の被告人には財力がないということもあり)被害者の訴訟当事者としての参加であったはずですが、導入されようとしている付帯私訴制度では被害者の当事者としての地位はほとんどなく、これだけでは意義そのものが問われることになります。ですから、発問権や在廷権という形で訴訟参加する制度になったということでしょうか? やはり憲法問題に発展する可能性は大きいと思います。

Posted by: 高野 善通 | 2006.09.07 at 04:06 PM

コメントありがとうございました。確かに、今回提案されている「附帯私訴」はこれまで考えられた制度とは異なっています。少なくとも、犯罪被害者が刑事訴訟手続に「参加」する制度ではなくなっています。だからこそ、「在廷権」「発問権」という直接参加する制度を作ろうとしているのだと思います。しかし、実際には両方が同時に働く場合が多くなると思いますから、両者が相俟って「刑事手続に直接参加する制度」ができるような様相を呈することになると思います。

Posted by: ビートニクス | 2006.09.08 at 05:49 AM

お久しぶりです。

これですね、素人としては「復讐刑制度に向かうのか?」と感じてしまいます。

仮に、100%譲歩して現実のものになった場合、刑が被害者の声によって変わらないと意味がないですよね。

それは刑罰という観点で許させるのかと?
社会(裁判所)が「被害者感情に配慮して判決」というのと「被害者の声が大きいあるいは無いで判決が変わる」では本質的に別物でしょう。

検察が仕事しなくても良いともなる。

「公訴」という言葉の重さをどう考えるのか、大きな分かれ目だとも思いますよ。

Posted by: 酔うぞ | 2006.09.08 at 12:56 PM

酔うぞさん
 コメントありがとうございました。確かに、犯罪被害者が法廷に入ってくる上に、附帯私訴が導入されると、「復讐」という要素が色濃く入ってくると思います。そういう意味では、近代的な裁判制度を逆行させるように感じます。
 犯罪被害者が意見を述べられる制度は必要かと思いますが、それ以上に、刑事訴訟手続に参加する制度については弊害の方が大きいのではないかと感じます。特に、裁判員制度で、市民である裁判員に与える事実上の影響が大きいのではないかと危惧しています。
 秋以降の法制審議会の部会での議論に注目したいと思います。

Posted by: ビートニクス | 2006.09.12 at 07:49 AM

基本に立ち返れば、被害者の声は法律改正で反映されるべきなんですよね。
法律改正が遅れる、あるいは面倒だから、個々の判決で直接反映させると言うことなら、法の支配の放棄である側面も出てきますね。

賞金制度とかもうちょっと慎重に考えた方がよいような話が多いですね。

Posted by: 酔うぞ | 2006.09.12 at 08:57 AM

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