共謀罪法案の審議入り=強行採決の行方は?
10月22日に大阪9区と神奈川16区で行われた衆議院議員補欠選挙は、自民党の2勝で終わった。その結果、今後、政府・与党は北朝鮮問題への対応や教育基本法改正案成立を目指す臨時国会でも強気の運営で臨むとみられると報道されている(毎日新聞の記事)。
先週後半になって明らかになった衆議院統一補選後の共謀罪法案の審議入り=強行採決の動きについては、その後、実際に、法務委員会の与党側で、「10月24日に、共謀罪法案の審議入りをして、1時間程度審議した後、強行採決する」というシナリオが検討されていた事実が確認されている。
このシナリオは一旦無くなったようであるが、昨日の統一補選の結果を受けて、再び息を吹き返してくる可能性は否定できない。その意味において、今日1日の動きが重要になる。
ただ、政府・与党は、まず、教育基本法改正案の審議を急ぐことが予想される。社民党の保坂展人・衆議院議員は、「どこどこ日記」の中で、少し前から教育基本法改正案の審議において、与党に臨時国会での早期採決の動きがあることを伝え、いつそれが来るか分からない微妙な情勢にあることを伝えている(2006年10月11日付「教育基本法の『天気予報と台風対策』」)。
ところで、共謀罪については、今後、北朝鮮情勢に絡めて、「テロ対策のためには必要不可欠である」という主張が大いになされる可能性がある。政府・与党は、国連越境組織犯罪防止条約(以下「TOC条約」という)があたかも「テロ対策」のための条約であるかのような説明を行い、マスコミもそれをたれ流しているために、国民の間でも誤解されている。
しかしながら、TOC条約は、アメリカに対する同時多発「テロ」があった2001年9月11日の前年である2000年12月に署名された条約である。
国連総会において、1998年12月8日、犯罪防止刑事司法委員会と社会経済理事会の勧告を受けて、国際的な組織犯罪防止のための包括的な条約を起草するための政府間特別委員会の設立を決定し、その後、国連総会のもとに置かれた「越境組織犯罪防止条約起草のためのアド・ホック委員会」において、1999年1月から起草作業が行われ、同委員会において合計11回の審議の後に条約案をまとめて越境組織犯罪対策条約が作成された。
同条約は、2000年12月に国連総会で採択され、日本政府も署名したのである(TOC条約の成立経過については、保坂展人・海渡雄一『共謀罪とは何か』岩波ブックレット44頁以下参照)。
国連は、テロに関する条約として、テロ対策関連の諸条約を採択しており、日本政府も、国連が1999年12月に採択していた「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」(以下「テロ資金供与防止条約」という)を批准するために、「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律案」等を提出し、国会で可決している。これを受けて、日本政府は、2002年6月には、テロ資金供与防止条約を批准している。(これらの経緯については、古いものであるが、私のホームページの「既発表記事の紹介」欄の「国連越境組織犯罪防止条約と日本―国際テロを口実に再編される刑事司法」をお読みいただければ幸いである)
TOC条約は、明らかに、国連のテロ関連諸条約とは流れを異にするものである。
まず、第1条は、その目的を次のように述べている。
この条約の目的は、一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進することにある。
その第2条(a)の「組織的な犯罪集団」の定義は、次のようになっている。
「組織的な犯罪集団」とは、三人以上の者から成る組織された集団であって、一定の期間存在し、かつ、金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため一又は二以上の重大な犯罪又はこの条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として一体として行動するものをいう。
注目すべきは、「金銭的利益その他の物質的利益を(直接又は間接に)得るため」「重大な犯罪(等)を行うことを目的として(一体として)行動するもの」という部分である。犯罪目的が、金銭的・物質的利益である点で、政治的な目的で犯罪を行う「テロ」とは区別されるのである(「情報流通促進計画」さんも、この区別について的確な指摘をしている。10月22日付「東京新聞が共謀罪審議入りについて批判~ピーター・バラカンさんとも勝手に『共謀』」)。
共謀罪制定の根拠とされているTOC条約5条1項(a)(i)にも同様の規定が設けられている。
金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって、国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの
ここにも、明確に、「金銭的利益その他の物質的利益を得ること」に関連する目的のために重大犯罪を行うことを合意することを犯罪化することが求められており、「テロ」の合意は含まれていないのである。日本において、テロ行為の未然防止のために、テロ行為の合意(共謀)をも処罰するような規定を設けるのだとしたら(現在の政府案も与党の最終の修正試案も、テロ行為に関する共謀を除外していない)、明らかに、TOC条約が求める犯罪化を超えた日本独自の立法であるということになる。
この点については、伊東研祐・慶応義塾大学教授が、最近発表された「国際組織犯罪と共謀罪」(ジュリスト1321号73頁以下)においても、次のように述べられているのが、参考にされるべきである(同79頁)。
いわゆるテロ対策立法という位置づけをしている論者が現に存在することにかんがみれば、目的犯化等による上述5条1(a)(i)の要件の明示を行うべきであろう。改正を条約批准に要する最小限のものにとどめる、というならば、それで特段の不都合もないだろう。
このように、TOC条約は、テロ対策のための条約ではないのである。それを前提として、TOC条約の国内法化の際に、「テロ対策」の面を加えるというのであれば、それはTOC条約の要請ではなく、それとは別の日本国内における必要性の要請によると言わなければならないはずである。
ところがつ、最近の国会でのやりとりの中では、「テロ対策を含む組織犯罪対策」という意味不明な言葉も使用されていると聞くが、あくらかに両者を混同している。両者は全く別の概念であり、明確に区別して論じなければならないものなのである。
ところで、日本経済新聞の2006年10月22日付朝刊は、政府・与党が、衆議院法務委員会において、少年法改正案の今臨時国会での成立を見送る方針を決めたという記事を掲載したが、そこでは、共謀罪法案と信託法改正案の成立を優先させるためであることが明記されていた。これまで、共謀罪法案の成立を今臨時国会では目指さないという報道が、政府・与党側の「死んだふり」だったことが明らかとなったのである。
今週から、臨時国会では、与党と野党との間で、教育基本法改正案と共謀罪法案の審議入りをめぐって、激しいつばぜり合いが行われることになるだろう。与党は、昨日の衆議院補選の結果を踏まえて、「国民が支持している」として強硬な姿勢をとってくるだろうし、強行採決も行われるだろう。
私たちは、これらの法案審議入りや強行採決を絶対に許されないという声を今以上にあげ、国会にぶつけていく必要がある。
【Today's Back Music】
川上さとみ/Sweetness(MYCJ-30395)
ピアニストの川上さとみの第2作。前作に続いて、力強くて安定した演奏が聴ける。
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