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2006.11.22

政府による教育基本法改正案の危険性と共謀罪法案の行方

 11月15日、衆議院教育基本法特別委員会において、与党は、野党の委員が欠席する中で、政府による教育基本法改正案について、与党単独での強行採決を行った。翌11月16日には、衆議院本会議を召集し、これも野党議員が抗議して欠席する中で、与党単独で強行採決を行い、衆議院を通過し、参議院に送付された。

 11月17日には、参議院本会議が召集され、ここでも野党議員が欠席する中で、政府による教育基本法改正案に関する審議を開始して、与党のみの質疑を行い、審議入りした。
 11月19日に行われた沖縄県知事選挙では、野党統一候補が及ぼす、与党候補が勝利してしまった。与党はこれによって勢いづき、野党による全ての委員会や理事会への欠席戦術は方針転換を迫られるに至った。

 本日(11月21日)、与党と野党が協議して、11月22日からの参議院教育基本法特別委員会に野党の委員も参加することが決まったと報道されている。これによって、国会は、一応、「正常化」したことになる。

 しかしながら、教育問題だけをとっても、この間、「いじめ」を原因とする生徒の自殺が相次ぎ、全国各地で行われたタウン・ミーティングは大手広告代理店の仕切りで、発言者に発言内容を予め指示したり、公務員を動員して、一般市民の参加を事実上締め出したり、発言者に謝礼が支払わていたなど、「やらせ」だったことが次々と明らかになるなど、教育現場での荒廃した状況や、小泉政権時代の世論操作の実態が明らかになっている。

 これらの問題について、ほとんど決着が付けられないままに、教育基本法改正案は衆議院を通過して、今臨時国会の成立目指して、着々と審議が始まろうとしているのである。

 既に、政府の教育基本法改正案の問題点については、専門家による批判等が数多くなされているところであり、私のような素人が指摘するまでもないところではある。しかし、マスコミは、与党と野党の政局報道ばかりして、あまり法案自体の問題点について報道しておらず、一般市民にとっては、何が問題なのかがよく分からないままではないかと思われる。

 そこで、私から見ても、今回の政府の改正案のうち、特にこれはひどいという点を1点だけ指摘することにしたい(愛国心問題については既に多くの指摘があるのでそれらの文献等に譲りたい)。

 政府の改正案の第16条1項は、次のように規定している。

 教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。

 この規定に該当する現行の教育基本法10条1項は、次のように規定している。

 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。

 「教育は、不当な支配に服することなく」という部分は、現行法と改正案とは全く同文である。ところが、改正案では、それに続いて、「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであ」ると規定している。これによって、実は、現行法と改正案は全く正反対の意味になるのである。

 従来、「不当な支配」の意味については、教育法学界の通説は、政治的・社会的勢力一般はもちろんのこと、教育行政による法的拘束力を持つ教育支配も含まれると解釈してきた。
 これに対して、文部行政解釈は、法律の根拠に基づく教育支配は正当かつ適法であるという少数説を主張していた(以上、兼子仁『教育法〔新版〕』有斐閣293頁以下参照)

 ところが、政府の改正案は、「他の法律の定めるところ」によって教育行政がなされることを正面から認めて、従来の文部行政解釈という少数説を法文化しようとするものであり、「不当な支配」の行使主体から行政権力・政治権力を排除するものとなっている(藤田英典「教育基本法『改正』法案の何が問題か」辻井喬ほか編『なぜ変える?教育基本法』岩波書店110頁以下)

 この1点を見ても、政府の改正案が、現行の教育基本法を根本から否定し、全く正反対の内容の法律を作ろうとしていることが象徴されている。

 尾木直樹氏と西原博史教授が、異口同音に、これは「教育のクーデター」だと呼んでいるのに全く同感である(尾木直樹・西原博史「対談:これは『教育のクーデター』だ」前掲書126頁以下)。いや、安倍政権は、「教育のクーデター」を手始めに、戦後の日本の民主主義に対する「クーデター」戦前回帰・戦前復古を意図しているのである。

 ところが、マスコミは、政府の改正案がそのような意図をもったものであることを知りながら、その内容の危険性を伝えようとせず、政局だけを報じて、結果的に、政府・与党の狙いを実現する方向に世論を誘導するものとなっている。

 その意味において、政府・与党が今臨時国会での教育基本法改正案にこだわることに対して、野党が欠席戦術も含めて徹底的に抵抗しようとすることには正当性があるはずである。しかし、沖縄県知事選の敗戦をもって、あたかも、そのような与党の戦術やあり方自体が否定されたかのような与党幹部の発言が声高に伝えられ、野党は欠席戦術を放棄せざるを得ない状況に追い込まれてしまったのである。

 しかし、戦後の民主主義体制それ自体を転覆しようとする「クーデター」を企図するに等しい教育基本法改正案については、徹底的に闘うべきであるし、野党議員は、国会に外にも出て、緊急事態であることを国民に直接訴えるべきである。
 その際に、「日刊ゲンダイ」が時々書いている野党の衆議院議員の総辞職という形で衆議院を解散に追い込むという戦術も含めて、徹底的に闘うべきであるし、私たち国民は、それを支持してかなければならない。

 そのためにも、明日からの参議院教育基本法特別委員会での審議の状況を注意深く監視し、今臨時国会での採決を絶対に許してはならない。

 ところで、共謀罪法案についても、衆議院法務委員会での審議入りが迫っていると考えられる。11月10日に、信託法案を採決した後、野党からは少年法改正案の審議入りを求めているが、与党側からはそれに応じるとの意思表示はなされないまま、ここしばらく法案審議が止まっている。

 ただ、明日以降の国会の「正常化」の中で、与党側から野党に対して、緊急に共謀罪法案の審議入りの提案がなされる可能性がある。
 共謀罪法案についても、今臨時国会での成立を期すためには、そろそろ衆議院法務委員会での採決がなされなければ、日程的に間に合わない状況が生まれつつある。
 今週後半(11月24日)以降、衆議院法務委員会での共謀罪法案の審議入りが、いつ行われてもおかしくない状況にあると言える。

 この共謀罪法案も、まさに治安立法であり、市民の自由なコミュニケーションそれ自体をターゲットにして取り締まろうとするものであり、これまでの犯罪概念を一変させようとするものである。その点では、その立法意図において、政府の教育基本法改正案と相通ずるものがある。

 沖縄知事選の結果を踏まえて、与党は、国会を強気で運営し、どんどん、その本質を露わにしてくるだろう。そして、会期末に向けて、教育基本法改正案を初め、防衛「省」格上げ法案や憲法改正国民投票法案、そして、共謀罪法案について、強行採決も含めた強行な対応がなされることが強く予想される。

 安倍政権によって、今まさに、見えない「クーデター」として、戦後の民主主義を否定し、私たち市民の自由や権利が奪われようとしている。今ここで闘わなければ、私たちはそれを失うだろう。私たちは、今まさに、そういう時代を生きている。

【Today's Back Music】
 Shakatak/Shakatak Live!(UPCH-1469)
  有名なフュージョン・バンドであるシャカタクが、渋谷のライブハウスで行ったライブを収録したライブ盤。懐かしい曲が次から次へと演奏される。最後の「NIGHT BIRDS」のライブ演奏はライブらしい演奏で聞き応えがある。 

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