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2007.03.24

犯罪収益移転防止法案の審議は拙速ではないのか?

 「犯罪による収益の移転防止に関する法律案」(以下「犯罪収益移転防止法案)が、3月23日午後の衆議院本会議で、自民、民主、公明などの賛成多数で可決された。参議院に送られて、早ければ3月末までに参議院でも可決され、今通常国会で成立する見通しとなったと報道されている(朝日新聞の記事)。

 この法案は、組織犯罪処罰法及び本人確認法によって、これまで金融機関に対して課せられていた(1)本人確認義務、(2)記録保存義務及び(3)マネー・ロンダリングの疑いのある取引罰の届出義務を、金融機関以外のリース業、宅建業者、貴金属商、私書箱業、さらには士業である弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士まで拡張しようとするものである。
 但し、法案提出前に、日本弁護士連合会からの強い反対があり、依頼者に対する守秘義務を負っている士業である弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士については、(3)マネー・ロンダリングの疑いのある取引の届出義務に関する規定は削除されている。

 犯罪収益移転防止法案は、金融機関、保険会社やクレジット会社、貴金属業者など42業種を「特定事業者」に指定し(法案2条2項)、(1)顧客の本人確認義務、(2)取引記録保存義務(7年間)、(3)犯罪の疑いのある取引を関係省庁に届出義務をを規定し、(3)の届出を受けた行政庁はその情報を主務大臣に通知し、主務大臣はこの情報を、国家公安委員会(警察庁)に通知する仕組みになっている(法案4~7条、9条)。

 そして、その実現を実効あるものにするため、法案は、行政庁が特定事業者に対して報告・資料提出を求めることができる権限を与えるとともに(法案13条)、立入検査(法案14条)や指導・助言(法案15条)をする権限を与えている。

 その結果、特定事業者に義務違反が認められれば、所轄する行政庁が是正命令(法案16条)が出され、それに従わなかった場合には罰則(2年以下の懲役又は300万円以下の罰金)が科せられる。
 組織犯罪処罰法は、疑わしい取引の報告義務違反に罰則を規定していなかったから(行政処分がなされてきた)、この法案によって、初めて疑わしい取引の報告義務違反の罰則が新設されることになる。

 今回の法案から、士業についての疑わしい取引の届出義務は削除されているが、それ以外の特定事業者のうち金融機関以外については、新たに、疑わしい取引の届出義務が課せられることになる。
 しかも、特定事業者は、その届出を行おうとすること又は行ったことを、当該疑わしい取引の届出に係る顧客等又はその者の関係者に漏らしてはならないと規定されており(法案9条2項)、密告しなければならないことになっている。
 ここから、この法案は、「密告義務付け法」とでも言うべきものとなっているのである。

 この法案は、これまで認められていた金融機関だけから、それ以外の職種に対して、広く密告義務を拡大しようとしている。これが一旦認められれば、今後、機会がある度に、この範囲はさらに広げられていく可能性がある。そして、将来的には、全ての国民に対して、違法な行為の疑いがあれば密告義務が課されるようになる可能性がある。

 また、警察以外の民間業者に対して犯罪に関する密告義務を課すというやり方は、犯罪取締りの「民営化」であるとともに、「国民総スパイ化」を目指すものであり、市民を相互監視させる世の中を作ろうとする動きと言わなければならない。
 それは、市民を疑心暗鬼にし、市民の横の連帯を妨げ、国家権力による支配をより強固なものにする方向で働く。

 今回、この法案にもっとも反対していた日本弁護士連合会の機先を制して、この法案を所管する警察庁は、士業の全てについて、疑わしい取引の届出義務を削除した。そのため、日本弁護士連合会は、表立ってこの法案に反対することが難しくなった。民主党も賛成に回り、反対する政党は共産党と社民党だけになってしまった。その結果、元々、「日切れ法案」として3月末までの法案成立を目指していた警察庁の思惑通りの展開になろうとしている。

 しかしながら、この法案が成立すれば、「疑わしい」というだけで、多くの市民の取引行為が、警察庁に報告されることになる。

 社民党の保坂展人衆議院議員によると、既に金融機関からの疑わしい取引の届出によって蓄積されていた金融庁のデータベースのデータは今後15年間消去されずに、国家公安委員会(警察庁)に引き継がれるという(保坂展人のどこどこ日記)。
 そして、国家公安委員会(警察庁)は、このデータを、外国の機関に提供することができることになっている(法案12条1項)。

 「疑わしい」というだけで報告され蓄積された私たち市民のデータが長期間保管されて、様々な捜査のために利用されるとともに、海外の機関へも提供されるというのは穏やかではない。これは、行政機関に関する個人情報保護法との関係でも問題がある。

 このように、この法案には数多くの問題点がある。それだけでなく、士業について削除された疑わしい取引の届出義務も、いずれまた必ず復活に向けた動きが出ることは必至である。

 ところが、国会では、野党である民主党も巻き込んで、極めて短時間の審議で、この法案が成立させられようとしている。これは極めて拙速な審議である。この法案が施行された場合の市民生活に対する影響について、もっと真剣な議論と検討がなされるべきであり、慎重な審議が不可欠であると言わなければならない。

【2007.4.8追記】
 本法案は3月30日に参議院本会議で可決され成立した。

【Today's Back Music】
 中島みゆき/元気ですか(YCCW-10026)
  中島みゆきの過去の名曲をリマスターで収録した企画もの。何気なく買って聴いたが、改めてその歌の持つインパクトに感動した。特に、「世情」は心に沁みた。

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