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2007.06.10

通常国会も終盤に近づいて

 今年の通常国会では、重罰化に繋がるなど問題のある法案が、次々と成立している。

 自動車運転による人身事故について、これまで業務上過失致死傷罪が適用され、その法定刑の上限は懲役5年だったが、刑法の一部改正案が本年5月16日に成立し(6月中旬にも施行される)自動車運転過失致死傷罪が新設されて、法定刑の上限が7年に引き上げられる。

 本年5月25日には、参議院で少年法改正案が可決され、成立している。改正された少年法は、14歳未満の触法少年に対して警察が強制捜査の権限を持つとともに、任意の取り調べができるようになること、おおむね12歳以上の少年でも少年院送致できるようになること、一旦保護観察になった少年について遵守事項違反がある場合に、改めて審判をして少年院送致できるようにするなど、2000年の少年法改正に引き続いて、少年に対する厳罰化の傾向が一層進むことになる。

 また、本年6月8日には、現行の「犯罪者予防更生法」と「執行猶予者保護観察法」を統合する更生保護法案が、参議院で可決され成立した。
 この法律は、従来、犯罪を犯してしまった者の更生を図ることを基本理念としていたことを変更し、再犯防止という目的を新たに追加して、重罰化を図ろうとしている。
 具体的には、仮出所者らが保護観察中に守るべき順守事項に違反した場合に、仮出所などの取消ができることなどが新設するなどして厳格化するとともに、仮釈放を判断する際に犯罪被害者の意見を聴取する制度も新設されるなど犯罪被害者対策も盛り込まれている。

 さらに、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」も、6月1日に衆議院で成立し、参議院に送付され、今週から来週にかけて参議院で審議され、今国会で成立する予定である。
 この法案は、被害者が刑事裁判に直接参加する制度や、刑事裁判官が刑事裁判の成果を利用して簡易迅速に損害賠償命令を出す制度を新設しようとすることなどを内容としている。

 現在、我が国においては、被告人の防御権は、憲法や刑事訴訟法が規定する権利が十分に保障されておらず、強大な国家権力を背景とする検察官の権限と比べると圧倒的に不利で、当事者対等が実質的には実現されていない。
 その現状をそのままにした上で被害者参加制度が新設されてしまうと、被告人・弁護人は、検察官による訴訟活動に対して防御するだけでなく、被害者やその遺族による訴訟活動に対しても防御しなければならなくなり、二当事者主義が崩れてしまうおそれがある。その結果、これまで以上に冤罪が増えたり、重罰化されることは避けられなくなると予想される。

 この制度が裁判員制度と一緒になれば(政府案では、裁判員制度実施の半年前に被害者参加制度が実施される予定である)、この制度が被害者や遺族による求刑を認めていることから、犯罪被害者や遺族が、「死刑」を求刑する場面が増加することが予想される。
 裁判員制度では、市民である裁判員が量刑判断にもかかわるようになるが、犯罪被害者や遺族の生の迫力に圧倒され、その被害者に共感する裁判員によって、現在以上に死刑判決が急増することが予想される。

 昨年以来、刑事裁判においては、死刑判決が急増しており、死刑確定者も100名を超えている。そのため、2006年12月25日の4名の死刑執行に引き続き、本年4月7日には3名の死刑執行がなされている。
 これまで死刑執行が差し控えられていた国会開会中という異例の死刑執行であったが、これは、死刑確定者を100名以上にはしたくないという法務省の強い姿勢の現れと見ることができる。

 今通常国会においては、複数の事件の審理を区分して審理する「区分審理制度」を裁判員制度に導入する裁判員法改正案も既に成立している。

 さらに、法務委員会での審議の中で、裁判員候補を選任の際に、裁判官が候補者に対して、「絶対に死刑を選択しないと決めているか」とか「警察官の証言を公平に検討、判断できるか」という趣旨の質問をし、その回答によっては、候補者が公平な裁判をしないおそれがあるとか、または理由を付さないで、裁判員から排除することができることが明らかにもなっている(保坂展人のどこどこ日記「[資料] 「 裁判員候補」に対しての質問と内心の自由について」)。

 これでは、死刑制度や冤罪に対して問題意識を持っている市民が、裁判員から完全に排除されるおそれがあることになる。
 すなわち、裁判員選任の過程において、死刑廃止論者かどうかという思想信条が問われ、死刑廃止論者は裁判員から排除されることを通して、裁判員が重罰を科すための制度として機能してしまうおそれが明らかになっているのである。

 今通常国会の残りの会期は残り少なくっているが、今通常国会では、法務委員会でも充実した審議がなされないまま、与党の決めるスケジュールで審議され、野党が反対しても、与党が強行採決してでも法案を通すというやり方が当たり前になっているが、このような国会運営は極めて異常と言わなければならない。

 国会の終盤にさしかかって、改めて、今国会で成立した法律の与える影響や意味について、きちんと検証する必要があるように思われる。

【Today's Back Music】
 神谷えり/duos(MRPD1001)
  ボーカリストである神谷えりが、ピアニストやギタリストなどとデュオを組んで作ったボーカル・アルバム。元々、うまいボーカリストであるが、シンプルなサウンドにボーカルが栄えるものとなっている。

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Comments

厳罰化のどこがいけないんだ、ゴルァ!!!
安田好弘のお仲間は早くつかまれよ。

Posted by: 通りすがり | 2007.06.30 at 12:34 PM

Nice post. I learn something new and challenging on websites I stumbleupon everyday. It's always interesting to read through content from other writers and practice something from other websites.

Posted by: fifa 15 coins | 2014.12.10 at 04:07 AM

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