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2008.05.28

死刑判決の急増と終身刑創設の動き

 2008年5月26日、前長崎市長を射殺した被告人に対して、死刑判決が言い渡された。

 長崎地裁(松尾嘉倫裁判長)は、「暴力によって被選挙人の選挙運動と政治活動の自由を永遠に奪うとともに、選挙民の選挙権の行使を著しく妨害し、民主主義の根幹を揺るがす犯行」であるとし、「本件では殺害された被害者は一人にとどまることなどを十分考慮しても、本件犯行の罪質、結果の重大性、遺族らの処罰感情、犯行動機の不当性、犯行態様の悪質さ、被告の犯行後の情状や犯罪性向の根深さ、一般予防の必要性の高さなどからして、被告に極刑を科すことはやむを得ない」と述べて、死刑判決を宣告した。

 死刑か無期かを区別するいわゆる永山基準被害者の数を重視していたが、近年になって、被害者1名の事件でも死刑判決が言い渡されるようになっており、この判決もその傾向を推し進めたものである。

 特に、この判決は、被告人の行為を「民主主義の根幹を揺るがす犯行」と断じ、いわば「選挙テロ」として厳重に処罰したものと考えることができる。我が国にはテロ犯罪を直接処罰する法律は存在していないが、それを先取りして厳罰に処した判決と評することができる。

 この判決に象徴されるように、最近、死刑判決は急増し、2007年には確定した死刑囚が23人も増えている。これは、アメリカ合衆国で死刑を存置している州の死刑判決が減少傾向にあることと正反対であり、しかも、鳩山邦夫法務大臣になって、急速なペースで死刑の執行が行われているのである。

 このような状況の中、超党派議員で構成された死刑廃止議連は、2008年4月17日、重無期刑(仮釈放のない終身刑)を創設し、第1審における死刑判決は全員一致が条件とし、そうでない場合には重無期刑となるという「重無期刑創設及び死刑評決全員一致法案」をまとめている(まだ、国会には提出されていない)。

 他方、これとは別に、超党派議員からなる議員連盟「量刑制度を考える超党派の会(加藤紘一会長)が発足し、2008年5月15日に総会を開催し、自民、公明、民主、共産、社民、国民新の各党幹部ら55人の議員が出席した。
 この会は、死刑廃止か存置かを置いた上で、死刑と無期懲役の量刑ギャップを論点に据えて、秋の臨時国会に向けて、終身刑の創設のための刑法改正案を提出することを目指している。

 これらの動きは、2009年5月21日から施行される裁判員制度を前にして、裁判所が死刑判決を急増させるとともに、法務省による死刑執行の急増という事態を前にして、いわば緊急避難的にであっても、現在であれば死刑判決になるような事案のうちの一部を終身刑に落とすことによって、少しでも死刑判決を減らすことはできないかという考え方に基づいており、それ自体は、刑事裁判の現実の中における苦渋の選択としては理解できない訳ではないものである。

 もちろん、仮釈放のない終身刑は、ヨーロッパでも残虐であるとして廃止される傾向にあることは確かであり、それぞれの議連でも、恩赦制度を活性化させるなど、一定の場合に釈放される余地を残すことは検討しているようである。

 我が国では、新たな刑罰を創設しても重罰化傾向が緩和されない現状がある。例えば、数年前に刑法が改正され、有期懲役が最長30年とされたが、無期懲役刑を受ける被告人も急増しており、有期懲役の長期化が無期懲役を減らす役割を果たしていない。

 このような現状からすると、終身刑を創設しても、終身刑も死刑も増え続けるという最悪の事態を迎えないとも限らないため、終身刑の導入については、専門家の意見も聞いた上で、慎重な判断や検討を要することは確かであろう。

 しかしながら、このまま何もしなければ、裁判所における重罰化の傾向は益々進み、死刑判決の急増を止められないであろうことも否定できない。

 死刑判決の急増と死刑執行数の急増を止めるために、私たちが何ができるかを真剣に考えていきたい。

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私は終身刑や無期懲役などの刑も死刑同様必要ないと思っています。 行為の善悪によって大きく人を苦るしめ罰する必要性を私は感じられないのです。 最高刑は懲役若しくは禁固20年ぐらいでかまわないと思っています。 それでも、たいていの人はやり直しがきかないくらいのダメージを受けると 思います。人は閉じ込めて苦しめても更生する可能性はかなり低い。 そうだったら、犯罪者と言われている人達をなるべく許すことで そうでないと言われている人達が得をするのも悪いことではない。 ちょっと、嫌らしいでしょうか。 結局殺... [Read More]

Tracked on 2008.06.03 at 07:11 AM

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Tracked on 2008.06.17 at 10:48 PM

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