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2008.09.28

裁判員制度の実施をめぐる攻防が始まった

 刑事裁判に、市民から選ばれた裁判員が参加して裁判官と一緒に事実認定及び量刑を行う裁判員制度の創設を定めた「裁判員が参加する刑事裁判に関する法律」(以下「裁判員法」という)は、2009年5月21日に施行されることが決まっている。この日以降に起訴された対象犯罪に適用されることになるので、実際に裁判員が参加する刑事裁判が開かれるのは同年7月以降だと言われている。

 ところが、最近になって、野党の中から、施行の延期を求めたり、見直しを求める声が挙がっている。

 2009年8月7日、共産党の市田忠義書記局長は、国会内での記者会見で「国民の理解が得られていない」と延期を求める方針を表明した。社民党も、同日、「延期も含めて再検討すべきだ」との見解を発表した。民主党の鳩山由紀夫幹事長も、横浜市内での記者会見で「もう一度、党内で議論する必要がある」と指摘し、その後、小沢代表は、同月13日に鳩山幹事長と会談した際に、裁判員制度を抜本的に見直す必要性を示唆して、「政権を取ってから(対応を)考える」と述べたとされ、民主党が政権を獲得すれば、裁判員制度のあり方そのものを見直すべきだとの意向を固めたと伝えられている(2008年8月16日付毎日新聞)

 このように、野党からは一斉に、施行延期論見直し論が吹き出しているのである。

 この時期に来て、野党から、施行延期論や見直し論が出されている背景には、裁判員制度が国民にまだまだ浸透しておらず、世論調査等でも参加したいとの声が少ないことに原因がある。

 最高裁判所が、2008年1月から2月にかけて、全国の50ある地方裁判所の管内ごとに計1万500人に面接して行った「裁判員制度に関する意識調査」によると、「参加したい」と「参加してもよい」の合計が15.5%、「義務なら参加せざるを得ない」が44.8%で、37.6%が「義務でも参加したくない」と回答したという。

 前回の調査では、「参加したい」と「参加してもよい」の合計が20%であったことから、今回の調査ではそれが15.5%に減少したにもかかわらず、最高裁判所は「制度運用の一定水準には達していると考えている」とコメントしていた。

 これに対して、裁判員制度を推進してきた立場からは、予定通り実施すべきであるという声が挙がっている。

 日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)の宮崎誠会長は、2008年8月20日、「刑事弁護を担い、国民の司法参加を願ってきた立場から、予定通り実施されるよう求める」とする緊急声明を発表した。

 樋渡利秋検事総長も、八月二一日、日本記者クラブで講演した際に、裁判員制度は「国民が司法に参加する民主主義の申し子。予定通り実施し、直すべき点があれば改善していけばいい」と述べて、改めて裁判員制度の予定通りの実施を訴えた。

 もっとも、日弁連の会員の中には、以前から裁判員制度に反対する会員がある程度おり、地方の単位会の中には、新潟県弁護士会が2008年2月29日に、栃木県弁護士会が同年5月24日に、それぞれ裁判員制度の施行延期を求める決議をしている。
 さらに、裁判員制度に反対しない会員からも、今回の会長の緊急声明の中に「人質司法や調書裁判という刑事裁判の根本的な欠陥はそのまま」であると述べている点を捉えて、そのような欠陥を改善することなく裁判員制度を施行するのは妥当ではなく、裁判員実施までに又は実施後の次の見直しまで、裁判員制度の運用や制度の改善を求める声も挙がっている。

 裁判員制度については、裁判員法が成立した後にも、部分判決制度などを導入するために施行前に法改正がなされたり、裁判員の辞退事由が政令で定められて思想信条を理由とする辞退事由が極めて限定されたことや、裁判員制度の運用についての検討が進められて、裁判員選任の際の質問の内容が限定されたり、裁判所から裁判員に対する説示の内容が定められるなどその内容が明らかになるにつれて、裁判員制度の問題点が徐々に明確になってきたことは確かである。しかも、裁判員法制定当時には全く想定されていなかった被害者参加制度が2008年12月1日から施行されることになっている。

 特に、裁判員制度の運用主体である最高裁判所は、裁判員に対する負担の軽減を最も重視し、そのため、争点を中心としたスリムで分かりやすい審理を行おうとしているが、その結果、これまで刑事裁判が担ってきた真相解明機能が大幅に失われるのではないか危惧される。

 実際にも、既に実施されている公判前整理手続において、裁判所は、徹底的に争点を限定しようとし、それに沿った必要最小限の証拠だけを採用し、争点から少しでも離れた周辺や背景についての証拠調べを極力排除しようとしている。このことは、山口地裁による公判前整理手続において、弁護人も同意していた写真撮影報告書や医師の供述調書などを山口地裁が採用しなかったとして、「殺意などの判断に必要な証拠まで排除され、審理が不十分だった」として破棄して差し戻した広島高等裁判所の判決(2008年9月2日)が現れるに至っていることも窺えるところである。

 裁判員制度は、もともと、刑事裁判によって裁かれる立場である被告人の立場を極めて軽視して作られたという根本的な問題を抱えていた。その上、具体的な制度設計について、裁判員法成立以後に、次々と当初の制度設計時には予想されなかった制度変更や具体的な運用が明らかになっており、アンケート調査においても、国民に受け入れられていない現状が明らかになっている。

 そうであるならば、現在の刑事裁判よりも被告人の防御権が侵害されることがないかどうかを視点として、改めて、裁判員制度を2009年5月21日から施行するかどうかについて、広く国民的議論を尽くすべきである。

 そのためには、野党が提起している施行延期論や見直し論を無視するのではなく、むしろ、よい契機であると捉えて、国会の内外で改めて議論し、広く国民的議論を提起すべきであろう。

 事は、被告人の人権に関わる重要な問題であり、被告人を実験材料にするようなことはすべきではない。制度改革の実施については、模擬裁判を続けるなどしながら、慎重の上にも慎重な検討がなされるべきであり、政府や与党や法曹三者は、現状を冷静に受け止めた上で国民との対話を進めて、より良い制度改革に向けた努力をすることが求められている。

【Today's Back Music】
Mr.Children/HANABI(TFCC-89257)
 ミスターチルドレンの最新シングル。NHKの北京オリンピック放送テーマソングだったようであるが、久しぶりにメッセージ性の強い歌に仕上がっている。

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Tracked on 2008.10.09 at 05:15 PM

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