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April 2010

2010.04.29

殺人罪等の公訴時効廃止を批判する

 2010年4月27日、衆議院法務委員会で、殺人罪等の重大事件についての公訴時効を廃止し、それ以外の犯罪についても公訴時効期間を大幅に延長する刑事訴訟法等の一部改正案が可決され、その後、本会議に緊急上程されて、衆議院本会議で可決・成立した。

 この法案は参議院先議だったが、わずか1ヶ月足らずの審議で成立させられ、同日、公布され施行された。

 2009年1月から、法務省が省内に「凶悪・重大事件に関する公訴時効の在り方関する省内勉強会」を立ち上げ、同年3月には中間報告(論点整理)を行い、同年7月15日には最終意見書「凶悪・重大事件の公訴時効の在り方について~制度見直しの方向性~」を発表し、そこで、殺人罪などの重大な生命侵害犯について公訴時効の廃止と、それ以外の罪についても公訴時効の延長を求めた。

 これは、自民党・公明党政権下のことであったが、その後の衆議院選挙で民主党が勝利し、民主党に政権交代した後も、千葉景子法務大臣は、官僚主導の象徴である法制審議会の改革に何ら着手しないまま、法制審議会第160回会議(2009年10月28日開催)に、凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に関する諮問第89号を諮問した。

 法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会は、昨年11月16日から計8回の会議を開催して、「死に至らせた罪」のうち死刑を法定刑とする犯罪については公訴時効を廃止し、それ以外の「死に至らせた罪」については公訴時効期間を2倍にするとともに、それを現に時効が進行中の事件にも遡及適用することなどを内容とする要項骨子案を採択し、法制審議会第162回会議(2010年2月24日開催)において部会が決めた要項骨子案が賛成多数で採択され、千葉景子法務大臣に答申された。

 民主党は、昨年の衆議院選挙に向けて作成した「政策集INDEX2009」の中では、一律に公訴時効を廃止することに反対し、「法定刑に死刑が含まれる重罪事案のうち特に犯情悪質な事案について、検察官の請求によって裁判所が公訴時効の中断を認める制度を検討します。」としていたが、法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会はこれを徹底的に否定していた。

 民主党の党内には、民主党の政策と異なる答申が法制審議会からなされ、これを政府提案の法案とすることに反対意見もあったが押し切られ、2010年3月12日、鳩山内閣はこの内容の法案を閣議決定をして、国会に提出し、同年4月1日に参議院法務委員会で審議入りした後、急ピッチで審議が進められて法律が成立したのである。

 この法案には時効が進行中の事件にも遡及適用する内容が含まれていたことから、当初から1日も早く成立させようとすることは予想されていた。法案の附則にも、公布した日に施行するとの規定も入れられており、法案審議はスケジュール闘争的に行われた。最後には、15年前に岡山県倉敷市で発生した殺人事件が4月28日に時効を迎えることから、わざわざその前日に衆議院本会議をわざわざ緊急上程してまで法律を成立させ、公布している。

 今回の法案審議は、政権党である民主党の鳩山内閣が法案を提出し、野党である自民党・公明党時代に法務省がまとめた内容と同じだったことからほとんどの政党が賛成し、法案成立が確実となった時点で、本格的で慎重な審議を期待できない状況となっていた。

 それにしても、日本では1882年(明治15年)に施行された治罪法の時代から導入され120年以上もの歴史のある公訴時効制度を、最も重い死刑が法定刑にある犯罪について廃止するというドラスティックな「改正」であるにもかかわらず、なぜ公訴時効制度があるのか、2004年に公訴時効制度を見直したばかりなのに何故再度改正する必要があるのか、一旦国家が公訴時効期間を定めて法律として公布しているものを勝手に遡って過去の事件に適用することが許されるか、などの根本的な問題について、納得のいく説明や審議が何らなされないまま、「被害者遺族が望んでいるから」という単純な理由から、その要望を全てそのまま受け入れて、公訴時効の廃止等を実現してしまったのである。これは歴史的に見て大きな禍根を残したと思う。

 今回の法改正は、刑事訴訟法については、被害者の意見陳述制度の新設、被害者が法廷に参加して訴訟行為ができるという被害者参加制度の新設に引き続いて、被害者の意向を実現する制度であり、それは裏を返せば、被疑者・被告人の防御権を制限する動きであり、厳罰主義の現れである。

 本来、公訴時効制度は、国家による公訴権を、一定の期間が経過した後は行使できないようにするという自己制約を課す制度であり、それは言うまでもなく、被疑者・被告人の防御権とのバランスの中で認められていたものである。これを、法定刑に死刑がある犯罪についてその制約を取り払い、いわば万能で強力な公訴権を認めたことになり、完全に歴史に逆行していると考えられる。

 このような立法が、民主党政権下でなされたことは大変に残念であり、悪い立法の一つとして私たちは絶対に忘れてはならない。

【Today's Back Music】
 古内東子/PURPLENFCD-27255
  
女性ボーカルの古内東子の新譜。派手さはないが聞き込めばスルメのように味が出る感じで、古内節が健在です。

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2010.04.02

東京都のインターネット規制条例に反対する

 東京都議会は、2010年3月30日、石原慎太郎都知事が提出した「インターネット端末利用営業の規制に関する条例案」を可決し、成立した。2010年7月1日から施行される。

 

ネットカフェ等規制条例(以下「本条例」という)は、まず、個室等で顧客に対してインターネットを利用することができる通信端末機器を提供してインターネットを利用できるようにする役務を提供する営業を「インターネット端末利用営業」と定義し、東京都の区域内で、店舗を設けてインターネット端末利用営業を営む者を「インターネット利用端末利用営業者」とそれぞれ定義する(第2条)

 本条例は、同営業者に対して、公安委員会に営業の届出をする義務を課すとともに(第3条)、同営業者に、顧客にサービスを行うに際して、運転免許証の提示等の方法で、顧客の氏名、住居及び生年月日(本人特定事項)の確認を行う義務を課し(第4条)、本人確認記録や顧客が利用した通信端末機器を特定するための事項(通信端末機器特定記録等)を3年間保存する義務を課している(第5条、第6条)

 本条例は、インターネット端末利用営業者に、スパイウェア等が利用できないようにするソフトウェアを備えた通信端末機器の提供や、防犯カメラの設置その他犯罪に利用されることを防止するなどの環境整備のための必要な措置を講ずる努力義務が課している(第7条)

 公安委員会は、インターネット端末利用営業者が、本条例に違反したり、立入り・検査を拒否する等の場合に必要な指示をすることができ(第8条)、その指示に従わない営業者の営業停止を命ずる権限が与えられ(第9条)、本条例の施行に必要な範囲で、インターネット端末利用営業者に対して、報告や資料の提出を求め、店舗等に立ち入り調査を行う強力な権限を有する(第12条)。本条例には罰則が規定されている(第14条、第15条)

 もともと、インターネットカフェにおいて、インターネットを利用した犯罪が多発しているなどという立法事実もない中で、インターネットが、表現を発信する強力な手段であり、憲法21条が保障する表現の自由の実現のための有力な手段であることを全く無視して、本条例が制定されたことには強い違和感が残る。

 本条例は、格差社会の中で、低所得者や無職者が、アパート等を借りることもできず、情報発信端末も自ら所持することができず、インターネットカフェを利用する以外にはその手段がない場合に、身分証明書等の本人確認書類を保有しない者については、それを理由にインターネットカフェに入場することを否定され、完全に排除されることになる。そのため全く通信手段を奪われて、表現の場を失われてしまう者が出るという点で大きな問題がある。

 また、身分証明書等の本人確認書類を保有する者にとっても、その利用者の氏名や生年月日等の個人情報が保存されるとともに、どの通信端末機器を利用したか等の情報も3年間もの長期間にわたって保存され、それが警察等捜査機関による押収によって、捜査機関にその情報が伝わることを予定しているものであり、インターネットカフェの利用者については、インターネットの匿名性が大きく奪われ、その表現行為に対する萎縮的効果も否定することができない。

 公安委員会は、インターネットカフェに対する調査権限とともに、立入検査権限をも有することになり、インターネットカフェの運営に大きく介入できることになる。

 このように、本条例には、憲法21条が保障する表現の自由に対する脅威という点で重大な問題がある。

 なお、今回、同時に提出された「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例案」に、「非実在青少年」にかかわる二次元規制(漫画等に対する規制)が入っていたことなどからその条例案に対する反対運動が巻き起こる中で(結局、継続審議となった)、もう一方のネットカフェ等規制条例の問題点がほとんどマスコミにも取り上げられない中で、極めて短い審議で本条例が可決・成立させられてしまった。結果的には、二つの条例案を同時に提出した石原東京都知事にうまくやられてしまった感が強い。

 本条例には重大な問題があるにもかかわらず、民主党が多数を占める東京都議員で簡単に可決・成立させられたことにも驚かざるを得ない。

 

このような条例は、インターネットカフェを利用する利用者に対して萎縮的効果をもたらすものであり、憲法が保障する表現の自由に対する侵害に当たるものであり、到底、許容することはできないと言わなければならない。
 したがって、東京都民は、本条例に対して異議を述べて、その施行に反対するとともに、その廃案を求めるべきである。

【Today's Back Music】
 植村花菜/わたしのかけらたち(
KIZC-59
  ネットなどで話題になっている「トイレの神様」という名曲を含むミニアルバム。私も初めて聴いたが、歌も上手いし、おばあちゃんとの交流を描いた「トイレの神様」は良い曲である。

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