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July 2010

2010.07.31

一年振りの死刑執行について考える

 2010年7月28日、東京拘置所で2名の死刑確定者について死刑が執行された。民主党に政権交代し、千葉景子法務大臣になってから初めての執行であり、ちょうど前の死刑執行から1年目に当たる日だった。

 千葉法務大臣は、大臣就任直後まで「死刑廃止を推進する議員連盟」に加盟しており、死刑廃止論者として知られていたこともあり、在任中には死刑執行に署名しないものと見られていただけに、この日の死刑執行は大きな波紋を広げた。

 千葉法務大臣は、死刑執行後に行われた記者会見において、法務大臣として初めて死刑執行に自ら立ち会うとともに、東京拘置所の刑場を報道陣に公開し、死刑制度の存廃を含めたあり方を研究する勉強会を発足させる方針を明らかにした。

 千葉法務大臣は、2010年7月の参議院選挙で落選し、菅総理大臣に辞表を提出したが慰留され、7月25日に参議院議員の任期が切れた後は民間人大臣として、職務を継続していた。

 読売新聞の記事によると、千葉法相は、在任期間中の「執行ゼロ」を避けたい法務省の官僚からの説得を受け入れて徐々に執行の決意を固めていったという。そして、法務省の官僚は千葉法務大臣に対して、裁判員裁判で国民が死刑か無期懲役かという重い判断を迫られるようになったために、死刑執行を避け続ければ国民の理解を得にくいことを強調していたという。これら官僚の説得と自らが参議院選挙で落選したにもかかわらず法務大臣職を継続することに対する批判を受けて、参院議員の任期が満了する前日である同年七月二四日に、千葉法相は土曜日にもかかわらず登庁して、大臣室で死刑執行命令書にサインしたという読売新聞七月二九日付

 

結局、千葉法務大臣は、官僚たちの説得に負けてしまったのである。

 千葉法務大臣がもともと死刑廃止論として活動していた弁護士であることから、その信念を貫けずに、官僚の説得に乗って死刑を執行してしまったことは大いに批判されるべきである。

 そもそも、千葉法務大臣は、ほとんど慎重に議論することなく法定刑に死刑がある犯罪について公訴時効を廃止するなどの刑事訴訟法改正を推進し、被疑者取調べの可視化についても慎重な姿勢を示すなど、法務大臣として評価すべき点は何もない中で、ただ唯一、死刑執行をしないということだけが評価できる点であったが、これも今回の死刑執行で自ら放棄したものであり、その結果、法務大臣として全く評価する点がないことになった。

 過去に、自民党政権下で、宗教上の信念から、在任中に死刑執行指揮書に署名しなかった法務大臣は2人いたが、それと比較しても、千葉法務大臣が在任中に死刑執行指揮書への署名を拒否し続けられなかったのはふがいないとしか言いようがない。

 なお、千葉法務大臣が明らかにした東京拘置所の刑場公開と法務省内の勉強会については、刑場はこれまでも国会議員などに公開されており、法務大臣就任当初から実施が可能であったはずであると考えられるし、法務省内の勉強会も当初は公開する意向であったが官僚側の抵抗もあってか、その後非公開に切り替わっている。

 今回の死刑執行については、千葉法務大臣が信念を貫けば執行される必要はなかったものであり、残念でならない。死刑の執行を停止した上で、国民的議論がなされるべきであり、今回のようなやり方で死刑を執行し、問題提起をしたとされるのは全くのお門違いであり、強く批判されるべきである。

【Today's Back Music】
 柴崎コウ/Love&Ballad Collection
  新録音を含む新譜。これまでの名曲も収録されており、聴き応えのあるアルバムとなっている。

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2010.07.02

東京都議会で否決された青少年育成条例改正案

 東京都知事である石原慎太郎は、東京都議会に対して、「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例案」(以下「青少年健全育成条例改正案」という)を提出していたが、東京都議会総務委員会は、2010年6月14日、民主、共産などの反対多数で否決し、同月16日の定例会本会議において、自民や公明は賛成したが、民主、共産など野党会派が反対し、3人差で否決した。

 東京都議会で知事提出の条例案が否決されるのは、青島幸男知事時代の1998年以来のことであった。

 東京都の青少年健全育成条例改正案は、(1)「児童ポルノの根絶に向けた機運の醸成及び環境の整備」として、都知事がフィルタリング機能を有する携帯電話等を推奨すること、(2)図書類等の販売の自主規制の範囲に「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から一八歳未満として表現されているものと認識されるもの(非実在青少年)」による性交・性交類似行為について、性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるものを追加し、(3)不健全な図書類に「強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害するものとして、東京都規則に定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」を追加し、(4)「何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する」との単純所持禁止規定を新設し、(5)一三歳未満の者で、未満の者で、水着若しくは下着のみを着けた状態にあるものの扇情的な姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として描写した図書類又は映画等について保護者等に適切な保護監督及び教育に努める努力義務を規定するなど多岐にわたっている。

 特に、(2)は、漫画やアニメに登場する子どもを「非実在青少年」との造語で規定し、
漫画やアニメを規制する点に着目されて反対運動が広がり、「表現の自由が侵される」として、著名漫画家らが反対を表明するなどしたことが大きな影響を与えたと考えられる。

 都議会閉会後、石原慎太郎知事は、報道陣に対して改正案を「もう1回出す」と述べ、次回の九月議会に再提出する方針を示した。石原都知事は、「反対のための反対で都民が迷惑。ばかなことをやっている。抽象論ではなく具体的な対案を出すべきだ。(出さないのなら)『現状を認める』と都民の前で言えばいい」と批判し、条例改正案について「目的は間違っていない。何回でも繰り返してやる」と述べたと伝えられている(産経新聞6月17日付)

 議会において否決された条例改正案を、仮に修正をすることなく何度も提出するとしたら、それは、都民の代表である都議会の意思を無視することに他ならない。石原都知事は、条例改正案の表現等を見直す必要があることは認めているが、本質的な内容を修正する考えはなく、そうであるならば、同じ条例改正案を何度も都議会に提出することは認められるべきではない。

 なお、大阪の橋下知事は、条例改正案が否決された後、大阪府の青少年健全育成条例について、「あいまいで不明確さがあり危険。議会で議論しなければ」と述べ、担当部局に条例改正の検討を指示したと報道されている(産経新聞6月24日付)。この動きについても注意が必要である。

 国会での児童ポルノ法に単純所持処罰規定を新設する改正案(自民、公明が議員立法として提案)についても審議されることがなかった。

 現在、「子どもを守れ」という抽象的なスローガンの下、規制権限の拡大を狙った改正の動きが続いている。

 いずれにしても、東京都の青少年育成条例改正案が否決されたことは評価できる。9月議会への再提出の動きを注視していく必要がある。

【Today's Back Music】
 山下達郎/街物語(WPCL-10788)
  テレビドラマ「新参者」のエンディングテーマ。9月15日にはニューアルバムの新作の予定されている。最近は映画やテレビのエンディングテーマを数多く手がけており、円熟味を感じるボーカルを聴くことができるのはうれしい。

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