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2010.12.26

村木事件に関する最高検察庁の検証報告書をどう読むか

 最高検察庁は、2010年12月24日、村木事件を検証した「いわゆる厚労省元局長無罪事件における捜査・公判活動の問題点等について」と題する報告書を発表した。

 2010年11月、法務大臣の私的諮問会議である「検察の在り方検討会議」が設けられ、検察改革について議論を始めているが、2011年1月から、最高検のこの報告書を基にして、週1回のペースで議論していくことになっている。

 私は、2010年11月15日、大林検事総長から、元裁判官である安廣文夫氏、元特捜検事である高井康行氏とともに、日弁連推薦により検証アドバイザーに 任命された。最高検の報告書案について第三者の立場から忌憚のない意見を述べることをその職務とし、関係する刑事記録のほか検察の内部文書や最高検による 調査によって作成された各種の報告書を閲読することが許された。12月24日夕方には東京高裁内司法記者クラブで会見にも応じた(朝日新聞2010年12月25日付朝刊社会面に写真と記事が掲載された)。最高検の内部検証に外部から第三者を入れたのは今回が初めてであった。

 公表された報告書に対する全体的評価としては、マスコミからの取材に対して、私は「100点満点の55点」と答えている。それでも甘いという見方もあるだろう。到底手放しで評価できる内容とは言い難い。

 第1に、内部調査の限界がある。それは本件の中心で関わった前田元検事やその上司であった大坪元特捜部長や佐賀元特捜副部長らを、それぞれ証拠隠滅と犯人隠避の罪名で立件し、逮捕・勾留の後に起訴(公判請求)しているため、本件の真相を最も知る人物から、真相を語らせることが困難となった。そして、彼らの個人的な資質や対応が強調されることによって、組織的・構造的な問題が見えにくくなってしまった。彼らの周辺の大阪地検・大阪高検の関係者についても、自らが犯人隠避の疑いをかけられないために自己保身的な供述をしている可能性もある。

 今回の事件は、大阪地検が決裁されたが、大阪高検と最高検にも報告が上げられ、それぞれが了承した上で事件処理が進められている。その意味で、最高検も全くの第三者ではなく、むしろ当事者そのものだった。

 以上のような事情から、最高検による今回の調査は様々な障害があり、十分に真相を解明することができなかった。まさに内部調査の限界を露呈したのである。

 第2に、今回の事件を大阪地検特捜部特有の問題である点を強調して、東京地検特捜部では起こりえなかったかのように論じている点である。大坪氏の キャラクターなどもあったとしても、村木事件が起きたのは、特捜検察という組織の構造的問題があったことは確かであり、それを地域性の問題にするのは矮小 化するものと言わなければならない。それは、村木事件を個人的資質の問題を中心に論じ、構造的問題であることについての言及はあるものの、その反省が弱い 点にも、その認識が現れている。

 第3に、特捜部の捜査においては、それ以外の事件の捜査と比較して、供述(調書)が重視される傾向 にあったが、最高検の報告書は、客観的証拠との整合性、裏付けの有無、秘密の暴露等の観点から細心の注意を払って慎重に検討する必要があることを指摘する ものの、供述調書が密室で作成されて内容虚偽の供述調書が作成されているという取調べの現状を肯定し、取調べの適正性の確保についてほとんど疑問が呈され ていない。
 そのことは、再発防止策について、取調べの一部録画を提案している点からも明らかであるが、最高検は、以前として、供述偏重の姿勢を維持し続けていると言うべきであり、今回の報告書の根底にはその姿勢が貫かれている。

 このような最高検の姿勢は、検察官による利益誘導や威圧的な取調べなどにより、被疑者が自発的に虚偽供述をするおそれがあることを全く看過している。

 倉沢氏の供述は、自己に対する責任追及を逃れるために、まさに任意で虚偽供述をしたと考えられる(検察官による不当な誘導と相俟って虚偽供述が完成されたと考えられる)。 最高検は、倉沢氏が弁護人の厳しい反対尋問を経ても、村木氏から公的証明書を受け取ったとの供述を維持したことを重大視しているが、この一点を否定すると 自らの虚偽供述を認めることになってしまうために否定しようがなかったと考えるのが合理的であり、到底、この供述を信用できるとは考えられない。

 上村氏は、当初は単独犯と供述していたが、威圧的な取調べによって、村木氏が関与したという虚偽供述がなされたことは明らかであり、まさに典型的な不任意供述である。そのことは弁護人から差し入れられた「被疑者ノート」 への詳細な記入によって証明されている。それにもかかわらず、最高検の検証ではその点の認識が甘すぎる。大阪高検から「この種の事件で単独犯とは考えられ ない」と指摘されたことによって村木氏関与への供述への圧力が強まったであろうことも明らかである。上村氏を取り調べた検事の取調べがかなり激しいもので あったことは、上村氏の公判供述からも十分に窺えるのであり、そのような取調べを容認してはならなかったはずであるが、最高検の報告書はそこまでの指摘は しておらず、不徹底である。

 そして、このような密室での取調べについて、現在では、事後的に検証できない点が最大の問題である。

 上村氏の供述をめぐっても、上村氏と、同氏を取り調べた國井検察官の法廷供述を見ると正反対の内容であり、まさに水掛け論となっている。このような事態を避けるには、取調べ全過程の録画(取調べの可視化)しかないのである。

 倉沢氏のような自発的な虚偽供述を見破ることは容易ではないにしても、それは発問と供述との対比や、供述の流れ、示されたり提示された事実や証拠などを丹念に突き合わせ、心理学者等の力も借りながら分析することによって、それを見破ることは可能であると考えられる。

 また、上村氏のような不任意の虚偽供述については、同様の方法で分析すれば、より容易に虚偽供述の原因を解明することは可能である。特に、その場合、単独犯から村木氏関与へ供述が変わる時点での発問と供述を分析することが重要である。
 したがって、村木事件の検証からしても、取調べの全過程の可視化は不可欠であるはずである。

 ところが、最高検は、再発防止策として、特捜部による身体拘束事件(逮捕・勾留した事件のこと。任意の事情聴取は含まない)の取調べの録音・録画を試行することを打ち出すことに止まっている。
 これを「一部可視化」などと報じる報道機関もあるが、一部録画は決して「可視化」ではない。

 報告書では明言されていないが、最高検が想定しているのは、既に裁判員裁判対象事件において実施されている取調べの一部録画である。現在行われて いる一部録画は、被疑者が自白している事件に限って、その取調べが一通り終わった後に、最後の供述調書の読み聞かせを行い、被疑者が署名指印するシーンと その後に一連の取調べについて、任意性を疑わせる事情が存在しないことについて確認するためのいくつかの質問をして、それに対する被疑者の回答だけを録画 するというものである(これを読み聞かせ+レビュー方式という)。決して、取調べの核心部分を録画するものではない。

 取調べで検察官に屈服させられで自白した直後では、とても冷静に対応できないと考えられるから、このような一部録画だけで一連の全ての取調べの過程が適正に行われたことを明らかにすることはできないことは明らかである(もっとも、裁判員裁判では、この一部録画だけで任意性が認められているケースが多いことも事実であり、それはむしろ裁判所の問題とも言える)

 最高検が、現場の反対の声の中、一部録画を再発防止策として打ち出したのは、この程度のことを提案しないと持たないという政治的な判断によるもの と言われている。しかしながら、一部録画というのは取調べの適正化を求める方向とは全く逆方向であることを認識する必要がある。

 すなわち、虚偽供述を強要されない取調べの適正化を図り、冤罪を防止するためには、取調べの全過程の録画(可視化)しかないのにこれを否定し、逆に、密室で作成した供述調書の任意性を立証して、その供述調書を、刑訴法321条1項2号書面として証拠採用させるために、一部録画によって、その特信性を立証しようとしているのである。
 これは、特捜事件について、検察に新たな武器を与えることを意味するのであり、むしろ、「焼け太り」とも言うべきことである。その意味で、一部録画の提案は不十分であるだけでなく、有害ですらある。

 第4に、最高検は、再発防止策として、決裁制度の改革を提案している。確かに、村木事件を見ると、決裁制度や、高検・最高検への報告と了承の制度が形骸化していたことが明らかとなっている。

 もっとも、村木事件においても、大阪高検は、この事件に対して、上級庁として報告を受けるだけでなく、積極的に捜査・公判に関与している。このよ うな実態からすると、高検検事長に決裁権を与え、高検に専属の担当検察官を置いたことによって、現在の地検と高検が共同で事件処理に当たっている実態がど れだけ改善されるか疑問である。そして、何よりも、その決裁の際の資料である供述調書について、これまで通り、密室の取調べでの利益誘導や威迫的な取調べ を事実上許容することによって得られた供述調書を前提としているのであるから、いくら決裁制度を変えても、ほとんど結果が異ならないことになるということ に対する危惧や危機感が全く無い点が問題である。

 決裁制度の改革は、地検と高検が共同で事件処理に当たる態勢がとられることによって、被告人・弁護人にとっては、より強大な組織と相対することに なるという面もあり、そうするのであれば、一審無罪になった場合には検察控訴を認めない制度とするというようなバランスをとる必要もあるのではないかと考 えられる。

 それ以外にも問題点は多いが、いずれにしても、最高検の報告書は、今後、法務省の「検察の在り方検討会議」において議論の対象となる。既に不十分 であるという声が多数出されていると報じられているが、検察改革を本気でやるためには、最高検の報告書が不十分であることは明らかである。

 この機会に、抜本的な検察改革がなされなければ、到底、地に落ちた検察に対する国民からの信頼を回復することはできないという思いで徹底的に議論を尽くす必要がある。

【Today' Back Music】

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  この時期になると、「White Love」が聴きたくなる。これは、りアレンジ等されたベスト盤で名曲揃いだと感じる。

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