【書籍】大門剛明「雪冤」
大門剛明「雪 冤」
発売日 2009年 05月 28日
定価(税込) 1575円
ISBN 978-4-04-873959-7-C0093
発行元 角川書店
第29回横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をW受賞したミステリー小説。「雪冤」とは、無実の罪であることを明らかにするという意味で、本書では、2人の男女を殺した罪で死刑判決を受けた青年の父親(元弁護士)が、息子の冤罪を晴らそうと奔走する中で、メロスと名乗る謎の人物から公訴時効寸前に自分が真犯人であり、自首をしたいとの連絡が入ってから大きくストーリーが展開する。
全編にわたって、太宰治の「走れメロス」の登場人物になぞられて、「真犯人」を名乗る人物が果たして誰なのかが追及される。
本作では、死刑制度と冤罪の関係について、一貫して読者に対して問いかける内容となっている。
結局、真犯人は自首しなかったため、死刑が執行された後、死刑廃止論を唱える主人公の父親は、冤罪によって国家に息子を殺された被害者の立場に置かれる。
京都を舞台に、登場人物の多くが関西弁を使いながら、圧倒的な迫力で最後まで読まされた。そして、非常に映像的な小説であり、リアリティを感じさせられた。
私自身も、死刑廃止論者であるが、本書は、現在、むしろ国民の多数が死刑存置論者である現状の前で、机上の議論ではなく、冤罪によって国家が国民を死刑に処してしまう恐れがあることを、国民一人一人が、改めて死刑制度を直視することの大切さを訴えているように感じた。
裁判員制度も始まり、死刑求刑事件であっても、市民である裁判員はそれを担当し、死刑か無期かを決める立場に置かれる。死刑を選択し、その被告人が死刑を執行された時、裁判員だった市民はどういう気持ちになるだろうか。そして、それが後になって、冤罪であり、間違っていたことが判明した場合はどうだろうか。
裁判員制度は、裁判員に選ばれる可能性のある市民に対して、常にそのような立場に置かれるかもしれない制度として存在しているのである。
本書は、裁判員制度と死刑制度に関心のある多くの方に是非読んでもらいたいと思った。
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